ALO,ALO,BRASIL

名曲アルバム:010

O Cantador/オ・カンタドール

text by こがねい

O Cantadol=歌い手....私が常々思いつづけていることに、歌手は感情を作り出してしまうと、とたんに説得力を失ってしまう....という思いがあります。楽しいパーソナリティーの人は楽しく歌を歌えるし、鬱状態にある歌手は陰鬱な歌になるし、そしてサウダージな人はサウダージを歌えるのです。そんな思いをすでに歌にした人がいます。このDory Caymmi作曲のO Cantadorは1960年代後半のそんな特殊な感情を作り出してしまいがちだった時代に発表された曲で、多くの歌手が取り上げています。独特の分数コードや不安定なSUS4コードなどを使用した、浮遊感のあるそのサウンドは、ブラジル内外を問わず歌い手に非常に人気のある曲のようで、多くの歌手が録音を残していますが、それほど騒がれることもなく、隠れた名曲の印象も強いです。それでは色々なバージョンの聴き比べをしてみましょう。


1:ドリ・カイミ/DORY CAYMMI

本家本元の彼のバージョンは1972年彼の最初のソロ作に収録されています。オルガンによるシロ玉のバッキングに12弦ギターによるフォークロック的なアルペジオを配して、そこに圧倒的な渋さと深みのあるDoryの歌声が...ブラジル音楽うんぬんを忘れさせてくれるスローテンポによる名演。しかしCaymmiファミリーは素晴らしい曲を書く!

2:ルイス・ゴンザーガ/O CANTO JOVEM DE LUIZ GONZAGA

1971年の彼のアルバムO Canto Jovem de Luiz Gonzagaに収録された彼のバージョンはミドルテンポで、正確ではないがやさしげな中年男性的な彼のボーカルスタイルに妙にはまっている。Chiquinhoのアコーディオンも彼の歌にやさしく寄り添ってサポートするようなスタイルで、とてもやわらかくて、素晴らしいコンビネーション。

3:マリア・クレウザ/YO, MARIA CREUZA

1968年頃ブラジルのソングフェスティバルなどで注目され、バイーアのインディーレーベルなどで録音していた彼女が花開いたのは70年代初頭。そんな彼女の1971年の大傑作、Yo, Maria Creuza に収められた彼女のバージョンは、とてもシンプルなベーシックトラックにストリングスをちりばめた、とても折り目の正しいバージョン。60年代後期のソフトロックのようなホーンアレンジもまだ初々しい彼女の歌い方にとてもマッチしていて絶品。

4:クァルテート・ノヴォ/QARTETO NOVO

Airto、Hermeto、Theo、Heraldoとにかく凄い面子で、1枚しかアルバムは出ていないし、内容も「え?1967年だ???74年とかじゃないの???」「なんなのこれ???」「とにかく聴け!」という....凄いグループQuarteto Novoのコンパクト盤のみに収録された、これまたとんでもない解釈のO Cantador。耳を疑いたくなるようなイントロと展開、その後に幸せの展開が....そしてまた壊れた現代を予言するような展開へ.....

5:サラ・ヴォーン/I LOVE BRASIL

Sarah VaughanのPabloでのブラジルアルバム I love Brazilの収録バージョンは、英語で歌っていながらも、作者Dori自身による、ギターとハミングが彼女の歌をサポートします。正直言ってジャズシンガーのバラード物はあまり好きでないことが多いのですが、SarahとDoriのあまりの深さに思わず聞き入ってしまいます。Sarahも的確なフェイクを少しするだけで、旋律とコードの美しいハーモニーが楽しめます。

6:カーメン・マクレエ/I AM MUSIC

あなたも歌うのか?この歌を!彼女のBlue Noteでの1991年I am Musicに収録。この曲の持つ、彷徨うようなメロディーを強調したエレピや、ボリューム奏法によるエレキ、シンセサイザー、控えめのオーケストレーション等によるソフトフォーカスの写真によるコラージュのようなアレンジが施された、最もソフトで、好き嫌いが分かれそうも無いバージョン。

7:タック&パティ/LOVE WORRIORS

1989年のWindham Hill Jazzでの彼らの2nd Love Warriorsに収録。当時ジミヘンドリックスのファンでもあった僕は、彼らのヒットシングル(だったと思う..ビデオクリップはありました)Castles Made of Sand/Little Wingの解釈に感心して、すぐにタワーレコードに買いに走りましたが、正直いって彼らのO Cantadol (Like a Lovers) はほとんど記憶に残っていません。彼らのコンビネーションを楽しむというより、Pattiの歌唱力を楽しむバージョン。

8:アンディー・ベイ/SHADES OF BEY

本当に、この曲は地味目のジャジー?なシンガーに好まれる曲のようだ。。。。彼はこれを1998年の12th street からのアルバムSades of Beyの1曲目、つまり掴みの曲にしている。伴奏はガットギターによるものだが、とてもジャズ的な印象のもの。

9:エリス・ヘジーナ/lll FESTIVAL DE MPB

彼女が第3回MPBフェスティバルににて歌ったこのバージョンがどうもこの曲の初出らしい....後に多くのアーティストが、バラード色を強くして取り上げているが、この Elisバージョンは、ずっとテンポが早い。とてもすっきりしていて、曲の持ち味を手短に味わえるしかし、好き嫌いは別にしてもElisは本当にどんな曲でも自分の物にしてしまう。もう少しテンポが遅ければ不朽の名演になれたであろうバージョン。良い!

10:シナーラ&シベリ/AS 12 MAIS de FESTIVAL DE MPB

Quarteto em Cy のCynaraとCybeleがデュオでこの1967年ごろ色々なソングフェスティバルに出品しつつ、アルバムを1枚CBSに残していますが、そのCBSの第3回MPB フェスティバルの出品作品のコンピレーションアルバムに残された彼女たちのバージョンは、素晴らしい!テンポもちょうど良いし、Quarteto em Cyでは厚くなりがちなコーラスも、デュオであるがゆえに抑制の効いたもの。アレンジも適度な穏やかさで悲しみについて歌う..絶品中の絶品。

11:ジョイス/宇宙飛行士

Astronauta~Song of Elisと銘うたれた、Joyceが Elis Reginaのレパートリーに挑戦した1998年のアルバムに収められたバージョンは、Sarah Vaughanの時と同じで、 Dori Caymmi自身によるハミングと、ギターによるバッキングによるもの、もちろん、どちらがどうだということではないのですが、ほとんどSarah Vaughanのバージョンと同じ印象のバッキングなので聞き比べてみると面白い。とてもバラードな印象、それほど上手いとも思えないJoyceの歌が、歌詞に特にマッチしていると思う、なかなかの逸品。