ALO,ALO,BRASIL

アルバムレビュー:023

TANIA MARIA / Taurus

text by カリオカ龍太郎

CONCORD JAZZ / 1981

Side A

  1. Tranquilitys
  2. Imagine
  3. Bandeira Do Lero
  4. 2 A.M

Side B

  1. Que Vengan Los Toros
  2. Cry Me A River
  3. Eruption

ベルベットのような深みのある赤を背景に、金メッキの水牛をソフトフォーカスで捉えるという、エレガント且つ安っぽいジャケットのおかげで、多くの人々から食わず嫌いされ続けてきたであろう本作。しかし内容の方は見た目(本人のルックスも含む)とは裏腹に恐ろしく完成度の高い大傑作なのでした。私など「ジャケは最低にカッコイイんだけど」なんて言いつつ友人にコレを聞かせ、彼等のビックリした反応を見る事が人生唯一の、そして最大の楽しみでありました(うそ)。

そんな、意表をついた名盤ともいえる本作ですが、先日ついに、レア盤掘り起こしブームの火付け役”サバービア・スイート”で取り上げられるという栄誉(または毒牙にかけられるという不幸)を手にしたため、その注目度も俄かに上昇している模様。事実、あるネットオークションでも、このアナログ盤が”サバービア掲載!”という売り文句のもとに結構なお値段で出品されていました(誰か買っちゃったのかナ... )。ちょっと前までは中古盤屋で、せいぜい1500円程度で買えたものですが、そのスジで話題になればケタが1つ上がるのも珍しくないこの世界、需要とマッチングさえすれば個人でボッタくるのも全然アリなのでしょうね。毒牙にはくれぐれも気を付けたいものです。とはいえ、マニアの専有物といった類いではございませんので興味をもたれた方、どうぞご安心くださいませ。CDでもちゃんと再発されています。

ちなみに『トーラス』とは金牛宮(ゾディアックの一つで、牡牛座にあたる)のことなんだそうです。この一見して意味不明でしょうもないジャケット写真も実はタイトルを忠実に再現したイメージだったのですね。「そのまんまやんけー」なんてツッコミも聞こえてきそうですが、そこは内容の良さに免じて勘弁してあげてくださいネ。要は外ヅラよりも中身ですし!ということで本題へ参ります。

ボサノヴァの誕生から衰退までを10代の時に間近で見ていながら、ジョビンやジョアンではなく、オスカーピー・ターソンに最も影響を受けたというタニア・マリア。いわゆるジャズサンバ派の演奏と聴きくらべても彼女の方がダイレクトにジャズ寄りなアプローチをしていることは明らかで、その辺が「ブラジル音楽の演奏家」ではなく「ブラジル出身のジャズピアニスト/シンガー」として名が通っている所以でしょう。ただ、小うるさいジャズマニアをも唸らせる彼女の卓越した技術や凝ったアレンジも、3分間ポップ慣れした安直なリスナーである私にとっては結構ウザッたく感じるケースが多く、特別お気に入りのミュージシャンというほどではありませんでした。せいぜいアルバム1枚に1曲いいのがあるかなーって程度。

さて81年にコンコードからリリースされた本作は、彼女が活動の場をフランスからアメリカへ移して録音した記念すべきイッパツ目であります。アメリカと言うことを意識したからかどうか、いつもの高いテンションを維持しつつもキャッチーで解かりやすいアレンジの曲が並んでおり、個人的には嬉しい内容になってます。中でも彼女のオリジナル、1曲目の『トランキュリティ』はダントツで素晴らしい(T皿T)!!もう、ほんとーーーに大プッシュ。7分を超える大作ですが初めから終りまでダレることなく一気に聴けてしまう希に見る極上品です。

「静寂」というタイトル通りのシットリした彼女のピアノで始まる辺りは、一瞬、こりゃエレガント臭満点なユルい曲か?とジャケに納得しつつ次の曲へサーチしたい衝動に駆られるのですが、30秒を過ぎる辺りからノリのいい展開となり、否が応にもグイグイと引き込まれてしまいます。パーカッションも効果的。で、2分間という長さを全く感じさせないイントロを経て、彼女得意のスキャットが登場(ここらで軽く1回目の鳥肌)。以後絶妙に抑揚をつけながら徐々にヒートアップしていく流れは猛烈に感動的です。やっぱ、何だかんだと言っても、サンバの国の人だから(by 三田佳子)といった感じで、もう鳥肌が勃発しまくること請け合いでございます。上品さをまったく失わずにこれだけ熱い演奏を聞かせるなんて、まったくもってミラクルですよ!と思ったら彼女、演奏する姿はトッテモお下品なんですって(ガクッ)。いやいや、下品なのではなく、男勝りにワイルドなのだそうです。わかる。見たことないけど。ともあれ音の方は本当に上品です。

そんな感じで気持ち良く盛り上がっていると、あっという間に曲はフェードアウトしてしまうのですが、正直この7分強の間はまったく飽きません。飽きないどころか、聴き終わる度に「えー、もう終わりー?」と、すかさずリピートしてしまうほどです。同じスキャットでも洒落たラウンジ物の浅い感じとは似て非なり。彼女のそれはずっと濃密で表情豊かなウネリがひたすらに気持ち良く、病み付きになること必至です。そんなわけで私はこの曲だけ聴いて、いつもすっかり満足し切ってしまうために残りの6曲はしばらく聴かないままでした(実話)。その後、他の曲もじっくりと腰をすえて聴いてみたら、これがじつに粒揃いなのでビックリ。2曲目はなんとジョン・レノン『イマジン』のカバー。これだけ有名な曲を完全に自分のものにしちゃってます。もちろん、ここでも得意のスキャットが全開。で、ラストの『イラプション』もまた彼女のオリジナルなのですが、これがほんとにヤバ過ぎます。まさにジャストナウという感じの最高にクールでキラーなジャズサンバ。いや、なんかこれ以上はもう勿体無くて言いたくないですね。というわけで、それでは。