ALO,ALO,BRASIL

アルバムレビュー:017

TOM JOBIM / Raros Compassos

text by 《DINO》

revivendo

以前にジョビンの初期作品集を出したブラジルのREVIVENDOレーベルから、またとんでもないものが出ました。なんと3枚組のレアトラック集。50年代末から60年代初頭にかけて、彼の曲を録音した有名無名のアーティストが76トラックも登場します(一部80年代の録音)。

ちょうどこの頃、ボサノヴァが生まれて一気にブームを迎える時期にあたるわけだけど、当のジョビンの仕事振りってのは、実は良くわからなかったんですね。当時はまだオデオンの社員だったはずで、いくらボサノヴァブームとは言え、そうそう仕事を選んでもいられなかったはず。また、逆にブームに便乗してジョビンの曲を歌いたがる歌手たちも多勢いたはずだし、さぞかし忙しかったんだろうなぁと想像されます。

中には結構な珍品も混じっています。たとえば、1964年録音のステリーニャ・エッグという歌手の歌う「ソ・ダンソ・サンバ」はSanba-Ranchoって表記になってますが、なんだか摩訶不思議なマーチングバンドのよう。

逆に1956年録音のエドゥというハーモニカ奏者の「ドミンゴ・シンコパード」なんて曲は、ボサノヴァだって言われても違和感を感じないもので、録音時期を考えると非常に興味深いですね。ちなみに作曲はジョビンとボンファの合作。

ヴィセンチ・セレスチーノは古いブラジル歌謡の人気歌手で、朗々と歌うスタイルがボサノヴァ世代から揶揄されて、「ボサノヴァの歴史」の中でも、ひどい扱いを受けてる人です。彼の歌う「シ・トドス・フォセン・イグアイス・ア・ヴォセ」を聴けば、この世代間の違いがどこにあるのかすぐにわかります。

レオ・パラッキの3曲は、「コーヒー・デライト」「ラテン・マンハッタン」「ムーンライト・ダイキリ」と観光気分いっぱいのイージーリスニング。なかなかの出来です。1958年の録音。

そして、超大目玉が Duo Mara e Cota というムジカ・カイピーラの女性デュエット。これがなんとシルヴィア・テリスと前述のステリーニャ・エッグの変名によるもので、アロイージオ・ヂ・オリヴェイラがオデオン本社からヒット作を出せと言う圧力を受けてでっちあげた存在しないグループ。SP盤1枚を残したのみで、しかもヒットはしなかったらしい。歌っているのは、「エウ・セイ・キ・ヴォウ・チ・アマール」と「エウ・ナン・イジスト・セン・ヴォセ」。どちらも、完全にセルタネージャ風にアレンジされていて、元の曲の面影は無い。ある意味、見事な改変ではあると言えます。録音は1959年。ちなみに当時25歳のシルヴィーニャ、前年に「エウ・ナン・イジスト・セン・ヴォセ」をルーシオ・アルヴィスとのデュエットで、「エウ・セイ・キ・ヴォウ・チ・アマール」は59年の春に録音しています。

てなわけで、3枚組6千円強というお値段で、なかなかお勧めはしにくいものですが、裏ジョビン集としては内容ボリュームとも現在最強の物ではあります。