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INTERVIEW numero 3:中村善郎さん

ALO,ALO,BRASILが皆様に贈る目玉企画、ブラジル音楽系ミュージシャンのインタビューのコーナー。有名アーティストから気鋭の新人まで、スタッフが注目&推薦する人物にインタビューしていきます。お見逃し無く。

今回のインタビューは、先日フランス録音のアルバム「いつか君に」を発表したばかりの中村善郎さんです。

文・インタビュー:ひがしの

最新アルバム
「いつか君に」


Q、最新アルバム「いつか君に」はフランス録音、しかもピエール・バルーさんのバックアップで制作されたいうことで、僕個人的にも非常に興味深い作品です。そのあたりの事を少しお聞かせください。
ピエール・バルーさんとはいつ頃どこで知り合ったのですか。

ピエールとは僕の2枚目のCD「街角」(91 日本コロムビア)の制作の時にオファーを出して依頼の付き合いです。その時彼は僕のオファーを断る為に会いに来てくれたのですが、書けば長くなりますが、結局引き受けてくれたわけです。

Q、ピエール・バルーさんをひとことで表現するならどんな人ですか。

僕にとって彼はいつも放浪の風を体現している人、という風に見えます。彼がただ居るだけで、そこがどんな場所であっても、何か広大な風景の中の風を感じます。それともう一つ彼のスタンスはいつも一定していて、それが魅力です。日本、ブラジル、フランスの彼を見ていますが、何処にいても、誰と接していても、彼のスタンスは変わりません。まるで世界中が自分のテリトリーの様に見えます。

Q、「おいしい水」はピエール・バルーさんによるフランス語詩のヴァージョンで収録されていますが、中村さんはフランス語もご堪能なのですか。また、この曲についての思い入れ等をお聞かせください。

僕はフランス語は出来ません。文法的にはポルトガル語と似ているので辞書を引っ張ればある程度の訳ぐらいは出来ますが、とにかく発音が難しくてだめです。「おいしい水」に関してはフランス語でやるならこの曲、とずっと思ってました。僕がピエールを知ったのはこの曲からでしたし・・・。

Q、 映画「サラヴァ」を見るとブラジルでピエールさんとブラジルのミュージシャンが語り合っているシーンがありますが、あのようにポルトガル語とフランス語はよく通じるのですか。

「サラヴァ」の中でピエールが話しているのはポルトガル語です。かなりフランス語なまりが強いですが、彼はちゃんとポルトガル語を話します。僕と話すときもいつもポルトガル語を使ってます。でもときどきいつの間にかフランス語の単語が挟まったりしてますけどね・・・。

Q、フランスのミュージシャンと録音された印象をお聞かせください。特にパーカッションのシルヴァーノさんは普段ブラジル音楽ばかり聴いているファンにもアピールするフィーリングを持っていると思うのですが。

「いつか君に」というCDは日本人である僕がフランスでブラジルで生まれたボサノヴァを中心に作る、といったとても無国籍なアルバムですが、フランスのミュージシャン達もすごく好奇心と興味を持って真剣に取り組んでくれたと思います。特にリシャール・ガリアーノ氏などは超過密スケジュールを縫って来てくれたわけですが、とても楽しんでくれて、終わりの時間も気にせずに最後には踊りながら演奏してくれました。シルヴァーノは一応ブラジル人です。といってもずっとフランスに住んでいるし、彼のお母さんはイタリアにいるそうですから、国籍に関してはよく分からないところもありますが・・・。彼のようなスタンスは僕の憧れの一つです。世界中の何処でも日本人として、ブラジル生まれのボサノヴァを演奏してみたいです。

Q、日本でボサノヴァは、かなり人々に浸透していると思うのですが、中村さんが感じるフランスでの印象はどうでしょうか。

フランスではレコーディングが目的だったので一般の人と接することは殆どありませんでしたが、ミュージシャン達に関してはかなり好意的に迎えられた、と思います。日本ではボサノヴァの捉えられ方は(音楽関係者を含めて)まだまだ表面的な心地よさだけで、軽く捉えられている場合が多いと思いますが、フランスのミュージシャン達はジャンル的なボサノヴァという事にはあまりこだわらず、僕が提示する音楽をいかに理解するか、ということに重点を置いていました。面白かったのは今回参加してくれたミュージシャン達(特にフルートのドミニク、とベースのモイーラ)が、どの曲に関しても歌詞の内容や僕の持っているイメージを知りたがった事です。そういった事を知ることで、自分の音楽にしようとしていたように見えます。

Q、日本語の曲も収められていますが、日本語で歌うことには違和感はありませんでしたか。普段から日本語でよく歌われていますか。

今まで何回か日本語の曲はレコーディングしてますが、やはり難しいですね。別に特別な偏見といったものはないのですが、言葉の構造上、母音と子音のバランスが、日本語では母音が多く、ポルトガル語では子音の比率の方が高いということがあります。子音がボサノヴァの重要なスイング感を作っているので、日本語のように母音の比率が高いとどうしても間延びしたものになりがちですし、それはある意味で、ボサノヴァの最も重要なファクターを失うような気がします。

Q、日本のミュージシャンで好きな人がいたら教えてください。

いわゆる音楽シーンというものにまったく無知なので、日本だけじゃなくどこのミュージシャンの事もあまり良くは知りません。勿論一緒に共演してもらっている人達は仲間として好きですし、尊敬もしていますが、アイドル的な意味ではいませんね。ただ全然別ジャンルだと思われますが、僕が最も素晴らしいと思う人に、寄席芸「粋曲」の都々逸などの爪弾き語りをする、柳家紫朝、という人がいます。(今まだ活動されているかどうかは分かりませんが・・・)僕には彼がボサノヴァ(特にジョアン・ジルベルト的な)の表現しようとしているものを、さらに進めた形で演奏しているように思えます。

Q、最近ブラジル音楽ファンの間では、ブラジル北東部の音楽が話題にあがることが多いのですが中村さんもよく演奏されるこの音楽について、なにかお聞かせください。

僕自身、サンパウロのバールを手始めにいろんな人にギターの手ほどきを受けたわけですが、その中の一人にパーカッショニストのパペーチ(ビリンバウの演奏で有名な人です)がいます。彼からは主にブラジルの数多くの民族音楽的なリズムを習いましたが、特に東北部のバイヨンやシャシャードといったリズムは彼の得意でもあり、かなり詳しく教わった気がします。僕にとってバイヨンなどは民族音楽的な面より、なにか遠くを旅しているような気分をもたらせてくれるので好きです。

Q、アルバム収録曲のジョビンの「リジア」は、僕個人的にも大好きな曲で、勝手に裏「イパネマの娘」という位置づけにしてしまっているのですが、中村さんのこの曲に対する思いをぜひ教えてください。

特に強い思い入れ、といったものはありませんが、「リジア」はジョビンの中にあるシャイでちょっと皮肉屋な面がはっきり出ていて好きです。

Q、最後に中村さんからファンのみなさん、ブラジル音楽好き、そしてこれからブラジル音楽を聴いてみたいと楽しみにしているリスナーにメッセージをお願いします。

何事もそうだと思いますが、エキゾチシズムや目新しさといったものは、物事の導入部としては重要なものですが、それだけに終始すると、そのものを理解することにはなりません。一歩深く踏み込んでみると、ある意味ではエキゾチシズムというものは失われますが、さらに多彩な世界が待ち受けているものです。(いつもそうだとは限りませんが)そして自分との接点を見つけだすことが出来れば、それは遠い世界のものではなく自分自身のものになります。憧れで終わらせるのは別に悪いとは、思いませんが、一歩踏み込めば全く違う世界が見えると思うし、ブラジルの音楽の中には世界中の誰もが共感できる普遍性をもったものが多くあると思います。是非一歩踏み込んでみて欲しいです。