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ジャズ・サンバ(ジャズ・ボッサ)の魅力

text by カリオカ龍太郎

50年代後半、ブラジルの音楽シーンは、サンバ・カンソンと呼ばれる熱唱系のジメジメした演歌が主流でした。とはいえ、遊び盛りで刺激を求めてやまないリオ界隈の学生達がそんなシミッたれた演歌なんぞに満足できるハズもなく、新しくてカッチョイー音楽はないかなー、と欲求不満を募らせていました。そして、そこに彗星のごとく登場したのが「ブラジル版・ギターを持った渡り鳥(というかタチの悪いフーテン)」ことジョアン・ジルベルトでした。人んちの風呂場で猛練習した末に発見したという、シンコペーションを多様した独特のギター奏法&囁くような彼のボーカルは、それまでにない知的で洗練された味わいに満ち充ちており、ナウいヤング達は一人残らずジョアンのとりこになってしまいました。こうしたアマチュア間での盛り上がりは、やがてオデオンでアレンジャーをしていたACジョビンなどの大物をもまきこむに至り、「ボサノヴァ(新しい傾向=俺達のやり方)」と呼ばれる一大ムーブメントへと発展します。そして次第にその名称はそこで生まれた音楽=ソフィスティケイトされた新しいサンバそのものを指すようになりました。

一方、プロ演奏家の中にもフラストレーションを抱える人達がいました。彼等は日頃、TV局やダンスホールなどで味気なくも単調なBGMや演歌の伴奏をして糟糠をしのでいましたが、当然そこには自身の音楽的野心が入り込む余地など一切ありません。彼等の野心とは、ずばりジャズです。当時はアメリカのジャズメンによるブラジル公演が頻繁に行われていたから、それらに接した彼等は同じミュージシャンとして大いに触発されていたのでしょう。そして、そんな彼等にとって「ベッコ・ダス・ガハーファス(酒瓶の袋小路)」という名のキナ臭い裏通りにあった数軒のナイトクラブはまさにオアシスでした。それらの店で連日、客が引けたあとにジャムセッションを好き放題に繰り広げ日頃のウサを晴らしていたわけですが、一方でボサノヴァの魅力にも逸早く反応します。

ボサノヴァの楽曲がもつ複雑なコード進行は彼等にとって料理をするのに格好の素材として映ったのでした。そしてジョアン・ジルベルトがギター1本でサンバを表現しボサノヴァを完成させたように、彼等もまた試行錯誤の末にジャズにサンバのノリを融合させた新たなジャンル、つまりジャズ・サンバ(ジャズ・ボッサ)を完成させるに至りました。もちろんハードバップ志向の強かった彼等ですから、ボサノヴァにならって急にソフト路線へ蔵替えをしたということはありません。クールななたたずまいという点では影響をうけながらも、演奏はあくまでも熱くて激しい、まさに男気タップリなカッコ良さに満ち溢れたものとなったのでした。またこの時期、サンパウロでも同様の動きがあり、かの地でも多くのナイスなジャズサンバ・トリオが結成されています。

さて、幾多のセッションを繰り返す中でジャズ・サンバ一派の面々はそれぞれ気の合う者同士でグループを作るようになります(その多くはピアノ・トリオだった)。そしてジャズサンバ・トリオ全盛時代を迎えるわけですが、悲しいかなそれもわずか数年に過ぎませんでした。というのも60年代後半には、ブラジルにも例外なくエレキ化の波が押し寄せてきたからです。それに伴ってフュージョンやロックが台頭してきたため、アコースティックな従来のジャズサンバはもはや時代遅れな音として淘汰されてしまったのでした。もちろん、彼らのほとんどはミュージシャンとして活動を続けましたが、ジャズサンバに限定していえば(例外はあるものの)、60年代とともに生まれ、そして終わったと考えて良いのではないでしょうか。

というわけでムーブメントそのものが短命だったためにその作品数も決して多くはなく、彼等のレコードはつい最近までほとんどが入手困難でした。しかも90年代以降、クールで激しい味わいが満載のジャズサンバは、踊れるジャズの宝庫としてクラブシーンにおいても絶大な人気を誇っているためDJ諸氏からのウォントも多く、またCD化されているものがごく一部にすぎないことなどもあり、中古盤市場では高値アイテムの定番となっていました。

しかしこのところのボサノヴァ人気に一昨年の「ボサノヴァ生誕40周年」などが追風となって、ここ2~3年の間だけでもかなりたくさんのタイトルがCDで再発され、現在は主要なものの多くを聴くことが可能です。ほんの数年前まではウン万出さなければ聴けなかったレア盤を近所のCD屋さんで気軽に買えるなんてシヤワセなことですネ。レア盤自慢に命をかけている方にはちょっと気の毒ですけどネ。では、以下にほんのちょっとですが入手しやすく且つ重要と思われる作品を紹介いたします。もちろん他にも素晴しいものはたくさんありますので興味のある方はCD屋さんのブラジルコーナーをつぶさにチェックしてみてください。

Tamba Trio / same

61年、故ルイス・エサ(p)をリーダーに、ベース&フルートという風変わりなパートのベベート、そしてバンド名の由来にもなった独自のパーカッションセット、「タンバ(フライパンや竹などの組み合わせ)」の発案者エルシオ・ミリートの3人によって結成されたタンバ・トリオ。本盤はジャズ・サンバ・トリオの草分けであり、そしてその最高峰でもある彼らの記念すべきファースト。ノッケから尋常でないテンションの高さに鳥肌必死。あまりのカッコ良さに気が狂いそう。ところで通常のドラムセットを用いなかったこともあると思うが、ジャズサンバお約束のリムショト乱れ打ちがタンバのサウンドには見当たらない。結果的にはそれが彼等をワンアンドオンリーにしているわけだが、それ故に純然たるジャズサンバの範疇に入れられないという説もある。(どっちでもいいじゃんネー)

Bossa Tres / Os Reis Do Ritmo

ルイス・カルロスヴィーニャス(p)がベッコ仲間の、エジソン・マッシャード(ジャズサンバのドラムパターンを完成させた一人)&セバスチャン・ネト(長きにわたってセルメンをサポートしつづけたベーシスト)とともに結成したボッサ・トレス。マッシャードの攻撃的なドラミングに鼓舞されるかのように他の二人も気合いが乗ってスリリングな演奏を聴かせるが、残念な事にこのメンツで録音したアルバムは3牧あるにもかかわらず今のところ一枚もCD化されていない。興味のある方はアメリカ人ダンサー、レニーデイルと共演したライブ盤&ハービー・マンのブラジル録音盤「Do The Bossa Nova」(「Voce E Eu」)がCDで発売されているのでチェックして頂きたい。その熱狂っぷりに驚くこと請け合いだ。さて本盤はピアノ以外の二人をメンバーチェンジした第二期による2ndアルバム('66)。第一期のような勢いは抑えトータル的なバランスに重点をおいた申し分のない秀作といえる。サンバ隊との共演による3、9 あたりが目玉といえそうだが、個人的には理屈なしに気持ちよく聴けるバーデン&ヴィニシウスの2曲目が大大大好き。

Don Salvador Trio / same

ベッコでの盛り上がりに参加すべくリオにやってきた黒人ピアニスト、ドンサルヴァドールの初リーダー作('65)。曲を作ることよりも既存の曲をどう解釈するかに重きをおいていたジャズサンバ一派の中にあって、レパートリーの大半を自作曲でもってくる辺りに彼のオリジナリティへのこだわりが伺える。そしてそのどれもが高いクオリティを誇っている。ドラムが複雑に打ってるにもかかわらず小難しくならない1 曲目などは、非の打ちどころがなく、ついつい繰り返し聴いてしまう。ドンサルヴァドールはその後ソロになり、作風も俄然ファンクへと傾いていった。またベースのエジソン・ロボは近ごろ一部で話題になっているサラヴァレーベルのル・トリオ・カマラにも参加していた。

Jongo Trio /same

ボサノヴァ大好き人間必読の書(でも絶版)、ルイ・カストロ著「ボサノヴァの歴史」の中でやたらと評価が高かったせいか、いつしか「幻の名盤」というスタンスが定位置になっていた本作。ゆえに再発の待望も久しかったわけだが、98年の「ボサ生誕40周年」流れでめでたく再発とあいなった。彼らはサンパウロ出身で、エリス&ジャイールのヒットシリーズ「ドイス・ナ・ボッサ」での伴奏が有名。また重いイントロがグッと来る1曲目の「オレンジ売りの少年」は彼ら唯一のヒットである。ユニゾンのコーラスを得意としているがタンバの洗練されたハーモニーと比べると少々朴訥な印象がある。しかし全体にはソツなく、良くとまっていると思う。輸入CDオンリーだが、7分にわたるライブ録音(ドリヴァル・カイミ曲のメドレー)のボーナストラックが入っている。

Sambalanco Trio / Vol.1 (Samblues)

こちらもサンパウロを拠点としていたピアノ・トリオ。「ベッコ一派=エジソン・マッシャード」の印象が強いせいか、リオのジャズサンバと比べてサンパウロのものは全般に線が細いような気がする。レーベルごとの録音の違いによるものなのだろうか?って技術的な事はよくわかりましぇ~ん。ともあれこのサンバランソ・トリオはサンパウロ物ならではのスタイリッシュさと同時に猛烈なたくましさも見せつけている。とくにマリアーノ(p)のオリジナル1曲目の激しさには何度聴いても身震いさせられる。後にアメリカへ渡り70年代フュージョンの重要作品で暴れまくったアイアートの頑張りによるところが大きいと思う。最高傑作。またラストのSambinha(これもオリジナル)では3人のスキャットによるコーラスも聴けるが、歯切れ良さが気持ちよく思わず踊りたくなってしまう。

Manfredofesto Trio / same

ボサ・リオのオルガン奏者兼リーダーとして70年に来日をしたこともあるマンフレッドフェストがRGEレーベルに吹き込んだ入魂の3rdアルバム(65)。エドゥ・ロボの代表作「祈り」から「サマーサンバ」、レニー・アンドラージの得意曲「Estamos Ai」、メネスカル&ボスコリの名曲「ヴォセ」など、馴染みのあるメジャーな曲が並んでいる。彼らの演奏には頼りなさがミジンもなく、またどれもアレンジに工夫が凝らされており吟味を重ねたあとが伺える。だが、曲によっては少々気合いが入り過ぎというか大げさな印象をうけたりもする。高速の「Impulso」と「オレンジ売り」がカッコイイ。後者は、最後が大げさにならなければジョンゴのバージョンよりも良かったのに。残念。。。