ALO,ALO,BRASIL

ミナス音楽

第1部

TEXT by 所沢 美茄子

はじめに

ブラジル、ミナス・ジェライス州は、サン・パウロ、リオ・デ・ジャネイロに次ぐブラジル第三の都市と言われていますが、その割には日本での知名度は低いのが現状です。しかし、音楽を含めた文化面は大変豊かで、魅力にあふれています。今回の特集では、ミナス音楽について二回に分けて語ってみたいと思います。

第一回では、主にミナスのミュージシャンとそのアルバムを紹介しながらミナスのポピュラー音楽について、第二回ではFolclore(フォルクローレ)と呼ばれる民族音楽のお祭りのひとつであるCatope(カトペ)についてお話します。

MPM(Musica Popular Mineira)

ブラジルのポピュラー音楽をMPB(Musica Popular Brasileira)と呼ぶのに対し、MPM(Musica Popular Mineira ※mineira=「ミナスの」)という表現があってもよいのではないかと思うほど、ミナスの音楽は独特です。ポルトガルやスペイン等のヨーロッパや、教会音楽の影響が大きく、メロディやハーモニーが大変美しい点が印象的で、Violonista(ヴィオラン奏者 ※ヴィオラン=ガットギター)が多いのも特徴です。

Clube da Esquina

1970年代初頭から80年代前半にかけて、ミナスだけでなく、ブラジル音楽の歴史の中で大きな存在であるClube da Esquina(街角クラブ)というムーヴメントがありました。これは、Marcio BorgesやLo Borgesを輩出したBorges一家とMilton Nascimentoとの出会いに始まり、創造的な音楽を数多く作り上げたミナスのアーティストたちの音楽活動です。

主なアーティストは

以上がシンガー・ソング・ライター。

この二人は作詞家です。

“Clube da Esquina”と名の付くアルバムは“Clube da Esquina”と“Clube da Esquina 2”の二枚があります。”Clube da Esquina”はMilton NascimentoとLo Borgesの名義で、二人の代表曲が詰まっており、上記のアーティストたちが演奏やコーラスで参加しています。

〜ミナス音楽入門編—Clube da Esquinaのアーティスト〜

これらのアーティストはそれぞれ自己名義の個性的なアルバムを出していますが、入門編としておすすめのアルバムを挙げると下記の通りです。あくまで独断と偏見で選んだもので、個人的な好みも反映されていますので、他にも素晴らしい作品は多数あることを申し上げておきます。

Milton Nascimento
“Minas” (1975) (CD再発有り)

タイトルが示す通り、ミナスの音楽を聴くにあたっておすすめしたい屈指のアルバム。1曲目の”Minas”は山々が連なるミナスの風景が脳裏に浮かぶコーラスをベースにした曲。 3曲目はToninho Horta作曲の”Beijo Partido”をMiltonが歌っています。 Toninhoのアルバム”Diamond Land”でJoyceが歌っているバージョンもありますが、個人的にはMiltonのバージョンの方が好きです。 6曲目にはミルトンの代表曲”Ponta de Areia”が収められています。

Lo Borges
“A Via Lactea” (1979) (CD再発有り)

Loが初めて作曲した”Equatorial”をはじめ、Loのポップな面が堪能できるアルバム。4曲目は”Clube da Esquina No.2”。7曲目の”Vento de Maio”はElis Reginaが歌った有名な曲ですが、このアルバムでは妹のSolange Borgesと一緒に歌っています。CDでは2 em 1 (Two in One) シリーズでこの“A Via Lactea”と”NuvemCigana”(1981)が出ていたのでもし見つかればおトクです(但し歌詞が付いていません)。

“Meu Filme” (1996) (CD再発有り)

長年のブランクを経て発売されたLoの最新アルバムですが、新しい感覚を取り入れながらも往年のLoらしさを失っていない絶妙の作品。日本でもおなじみの Caetano Veloso,Marcos Suzanoらが参加しています。

Wagner Tiso
“Matanca do Porco” by Som Imaginario (1973) (CD再発有り)

Wagnerはソロでも作品を出していますが、ここではWagnerが全面的に作曲を担当し、彼のセンスが光るこの作品を紹介します。これはSom Imaginarioというグループのアルバムで、1曲目”Armina”でのWagnerのピアノは感動的な美しさ。ジャズやフュージョンが好きな方にもおすすめですが、このアルバムは日本での入手は困難なようです。 Som Imaginarioは他にもアルバムを数枚出しており、中にはサイケデリックなものもありますが、グループ名「創造的な音楽」が示す通り、大変ユニークで面白いです。

Toninho Horta
“Terra dos Passaros”(1979) (CD再発有り)

Toninhoの原点と言えるファースト・アルバム。実際、このアルバムに録音されている多くの曲が形を変えて現在でも録音され、ライヴでも演奏されています。1曲目の”Ceu de Brasilia”、5曲目の”Pedra da Lua”(Toninho4枚目のアルバムの”Moonstone”という曲)、9曲目の” Beijo Partido”ではToninho独特のメロディ・センスが発揮されています。

Beto Guedes
“Sol de Primavera”(1979) (CD再発有り)

Beto Guedesの声は個性的なので、人によって好き嫌いがあるかも知れませんが、彼の世界にはまると取りつかれてしまう、そんなメロディの作り手です。ヴォーカルだけでなくヴィオラン、ベース、ピアノ、バンドリン、フルート、パーカッション等をこなすマルチ奏者。このアルバムではそんな彼の才能を垣間見ることができます。

Flavio Venturini
“Nascente”(1981) (CD再発有り)

Flavioの代表曲が収められたファースト・アルバム。Flavioの美しいメロディが存分に味わえます。3曲目”Jardim das Delicias”や、11曲目“Fantasia”のインストゥルメンタル曲も最高。6曲目”Noites de Junho”はTavinho Mouraの曲ですが、「感涙」の一言です。このアルバムにはヴァイオリンのMarcus Vianaが参加しており、彼の演奏が一層美しさを引き立てています。

“Cidade Veloz” (1988)

全曲Flavioが作曲を手がけ、作詞はRonaldo BastosとMurilo Antunes(いずれもミナス出身)が担当。美しさにかけては「超」がつくほどおすすめです。プロデューサーはサックス・プレイヤーのZe Nogueiraで、彼の演奏も泣かせます。 2曲目はLeila Pinheiroが歌ってヒットした”Besame”。4曲目”O Medo Nao Cria”にはLo BorgesとBeto Guedesが参加。 8曲目の”Casa Vazia”ではMiltonとの共演、Toninhoがギターで参加していますが、これまた涙ものです。

Tavinho Moura
“O Aventureiro do Sao Francisco” (1994)

Tavinhoはフォルクローレの研究家でもあり、作品においてもそれを垣間見ることができるユニークな作曲家です。彼の独特なメロディやアレンジはこの作品で堪能できます。 5曲目”Noites do Sertao”や12曲目”Gente Que Vem de Lisboa”は彼の定番。 11曲目”Boi e Gente”はいかにもTavinhoらしい一曲。10曲目”Dois Rios”はミナス出身Sergio Santosとの共演の美しい作品。ミナス北部を流れるサン・フランシスコ川の夕暮れの写真がジャケット内側に収められていますが、そんな風景が浮かんできます。

〜ミナス音楽 その他のアーティスト〜

上記以外のミナスのミュージシャンとおすすめアルバムを演奏楽器、またはジャンル別に紹介します。

Violao(ヴィオラン)

Juarez Moreira
“Bom Dia” (1989) (CD再発有り)

洗練されたスタイルのジャズとブラジル音楽を織り交ぜるギタリストJuarezのファースト・アルバム。彼はToninho Hortaとも親交が深く、このアルバムでも”Samba pra Toninho”(トニーニョのためのサンバ)という曲で共演していますが、Toninhoとは一味違った個性的なスタイルを確立しています。8曲目の”Diamantina”はToninhoのアルバム”Diamond Land”にも入っていますが、 Juarezがオリジナルです。5曲目の”Baiao Barroco”はミナス出身のJuarezならではの一曲でしょう。彼の音楽はフュージョン・ファンにもおすすめです。

Dercio Marques
“Espelho d’agua” (1999?)

自然(主に水)をテーマにしたコンセプト・アルバム。3〜14才の子供たちで結成されたグループ”Anjos D’agua”のコーラスや4曲目”Espelho de Agua”のヴォーカルをとる少年の声が美しい。25曲ある大作で、ミナスのフォルクローレも入っているおすすめ作品。

Robertinho Brant
“Lugares”(1994)

作詞家Fernando Brantの甥の作品。Milton Nascimento, Juarez Moreira, Toninho Horta, Beto Guedes等、ミナスのミュージシャンが多数参加していますが、Robertinhoの音楽はこれらの参加ミュージシャンに負けていません。6曲目の”O Teu Olhar Me Diz”ではToninho Hortaのヴィオランが美しい。ロマンチックなアルバムで、ミナスの画家Gilberto Abreuによるアートワークも素敵。ミナスの世界にどっぷり漬かれます。

Leo Minax
“Bonito de Escutar” (1996)

スペイン在住のミネイロ。ジャズをベースにした落ち着いた曲作りで、ブラジル音楽、フラメンコも取り入れたアルバム。優しげなヴォーカルも素晴らしい。 Toninho Hortaが参加しており、ファンは必聴だが残念ながらこのアルバムは日本での入手は難しいようです。ブラジルでのキャリアがないためにスペインで活動しているとのことですが、強力にプッシュしたいミュージシャンです。

Cantor (歌手)

Ladston do Nascimento
“Anjim Barroco” (1999?)

歌声がMilton Nascimentoに似ていますが親戚ではありません。しかしMiltonに劣らぬ素晴らしい歌唱力の持ち主。美しいメロディの曲が多く、5曲目の”Belo Horizonte”や11曲目の”Confins”(Belo Horizonte国際空港の名前)等、ミナスへの愛があふれるアルバムです。Antonio Carlos Jobimに捧げた9曲目の”Saudade doBrasileiro”では美しいスキャットが聴けます。Nivaldo Ornelas のサックスも涙もの。Juarez Moreiraが全面的に参加。

Paulinho Pedra Azul
“Paulinho Pedra Azul, 10 Anos” (1992)

この人の歌唱力も素晴らしい。ロマンチックで美しい曲が多く、インストゥルメンタル音楽の作曲も手がける。10周年記念アルバムということで20曲入っているので、彼の音楽を聴き始めるのにはおすすめの作品です。共演者はJuarez Moreira, Lincoln Cheib等のミネイロ。 Toninho Hortaの“Esperando Anginha” (”Waiting for Angela”)のアレンジ作も楽しめます。

Nos & Voz
“Hum” (1992?)

ミナスのマンハッタン・トランスファーとでも言おうか、男女三名ずつのコーラス・グループです。 Jobim作”Por Causa de Voce”はPaula Morelembaumのヴォーカル・ヴァージョンで知っているが、このグループのコーラス・アレンジも美しい。うまく表現できないのですが、こういったコーラスによる歌声も、ミナスの風景にぴったりなのです。

Violino (ヴァイオリン)

Marcus Viana
“Trilhas e Temas Vol. 1” (1992)

Marcus Vianaはヴァイオリン兼キーボード奏者で、近年ではテレビドラマや映画音楽を多く手がける一方、自己名義のアルバムも多数出しており、彼の創造性には圧倒される。多数あるアルバムの中でもまずこの作品を最初におすすめします。2曲目の”Canto das Sereias”は究極の美しさ。10曲目の”Ave Maria”では娘Oiviaの可愛いヴォーカルが聴けます。 Marcusは自己のレーベル”Sonhos e Sons”を持ち、レーベルからは自己名義はもちろん、子供向け音楽やヒーリング・ミュージック等の企画アルバムを出しています。

Teclados (キーボード)

Telo Borges
“Vento de Maio” (1997?)

Lo Borgesの弟Teloの作品。兄弟ということもあってやはり歌声や作風はLoに似てポップです。 Loの”A Via Lactea”にも収められているタイトル曲はTeloの作曲。同じく兄弟のMarcio Borges, Solange Borgesが作詞、Nico Borgesが作曲、 Marilton Borgesがキーボードでバック・アップしている、Borges一家のファンにはたまらないアルバム。

Sax (サックス)

Nivaldo Ornelas
“Colheita do Trigo” (1990)

ミナス音楽の美しさを語るとき、Nivaldoも外せないミュージシャン。彼のサックス、メロディには感動のひとことです。2曲目の”Sentimentos Nao  Revelados”はMiltonNascimentoがヴォーカルで参加。本作にはその他にも Flavio Venturini、Cid Ornelas(Nivaldoの弟、チェロ)、Tulio Mourao等のミネイロ、そして日本在住のLuizao Maia(ベース)が参加しています。

Baixo (ベース)

Yuri Popoff
“Catope” (1992)

ミナス州北部Montes Claros出身。妻はToninho Hortaの妹、Lena Horta。 Milton NascimentoとToninho Hortaの影響を大きく受けたという。2曲目の” Folia do Divino”では故郷で行われるカトペのリズムが使われている。現在はリオに住むが、Yuriの音楽には常にミナスへの愛が感じられる。このアルバムのジャケットには、カトペの祭りの衣装が描かれている。

Rock Progressivo (プログレッシヴ・ロック)

Marco Antonio Araujo
“Quando a Sorte Te Solta um Cisne na Noite” (1983?)(CD再発有り)

故人。Marco Antonioの音楽はプログレと言えどもハードではなく、静かで叙情的。音楽に物語を感じます。ロック、クラシック、フォークの要素を合わせ持ち、ミナス音楽に通じる美しさがあります。プログレという観念にとらわれずに聴いてほしい作品。

“Lucas”

Marco Antonioの遺作。1曲目の”Lembrancas”は16分と長く、これだけでLP片面。上記の作品よりはロックっぽさが出ていますが、曲の美しさでは上記と変わりありません。Jacques Morelembaumがチェロを担当。Sagrado Coracao da TerraのメンバーだったIvan Correa(ベース)、Lincoln Cheib(ドラムス)が参加しています。

Sagrado Coracao da Terra
“Grande Espirito” (1994)

Marcus Vianaがリーダーを務めるグループの力作。Marcusのエレクトリック・ヴァイオリンは相変わらず美しいが、本作でヴォーカリストに迎えられた BauxitaがまさにSagradoの音楽にはふさわしく、その歌声は迫力満点で圧倒されます(このままSagradoに残ってほしい…)。4曲目”Eldorado”はMarcusの”Trilhas e Temas Vol.1”に収められた曲で、本作ではMilton Nascimentoがヴォーカルで参加。

14 Bis
“Siga o Sol” (1996)

アルバム全体にミナスのエッセンスが感じられるおすすめ作品。以前Flavio Venturiniが在籍していたこともあって、このグループのアルバムにはFlavioが参加することが多く、本作でも曲を提供・参加しています。ギタリストはFlavio の弟、Claudio Venturini。 Flavioの存在はグループの音楽に大きな影響を与えたと思われますが、このグループは彼が抜けたあとも素晴らしい作品を出し続けています。

ミナスの古い音楽を聴きたい方へ

Marcus Vianaのレーベル ”Sonhos e Sons”から、”Collegium Musicum de Minas”というシリーズで、16〜18世紀のミナスの音楽を集めたCDが2枚出ています。 1枚目は”Ninguem Morra de Ciume”, 2枚目は”Senhora del Mundo”で、いずれもバロック音楽。教会音楽はミナスの音楽に大きな影響を与えています。


以上、ミナスのミュージシャンを紹介しましたが、この他にも素晴らしいアーティスト、未知のアーティストも大勢います。まだ自身のアルバム制作に至っていないアーティストもおり、現状は厳しいようで残念です。ただし、自己名義のアルバムは未発表であっても、他のアーティストのレコーディングに参加する等して実績を積んでいる人もいるので、アルバムのクレジットに注意してみるのもアーティストを知るひとつの方法です。

<次回予告>

ミナス・ジェライス州モンチス・クラロスで毎年8月に行われる、フォルクローレのお祭り、カトペについてお話します。