ALO,ALO,BRASIL

ブラジル音楽の1999年

 さて、巷では猫も杓子もミレニアムミレニアムと騒いでおりますな。わし仏教徒やもんねぇ、関係ないもんねぇなどと言っていたら、芝の増上寺にでっかい「ミレニアムカウントダウン!」って看板が出てました。「坊主、お前もかぁ!!」って感じでこれもまた感慨深いことであることよのぉ。

 まぁそんなこんなの慌ただしい師走ではございますが、皆様、年越しの御用意はお進みでしょうか? 今年もあとすこぉし残ってはいますが、そろそろまとめにはいんないとね。ってわけで、1999年を振り返ってみませう企画。超豪華三部構成でお届けします。(^_^;)

 第一部は、ブラジル音楽ファンにはお馴染み、音皿処「中南米音楽」のケペル木村さんに今年の総まとめをしていただきました。


第一部:1999年のブラジル音楽シーン by ケペル木村

 来年はブラジルにとっては2000年ということ以上に「ブラジル発見500年」ということで、国中が昨年あたりからもう大騒ぎをしている。音楽業界もそれに乗って(ワルノリして?)、リリースの点数も格段に増えているし、各地方に次から次へと生まれるインディペンデント・レーベルの数もフォローしきれないほどになっている。また、メジャー・レーベルは豊富な音源を駆使して色々な企画ものをたくさんリリースしている。

 こんなにリリースしていったい誰が買うのだろうか? どんなブラジル人が買えるのだろうか? 今年の3月頃に、長年にわたり裕福だと思われていたミナス・ジェライス州からから始まったブラジルの経済危機のせいで、レアルは下落し今やドルの半分の価値しか有していない。そんな経済状態の中で一体全体CDは売れているのだろうか? CDなどを買う余裕はあるのだろうか?

 現在ブラジルの音楽業界自体は、たとえばCDのブラジル国内での売り上げでいえば確か世界の国の中で6番目か7番目に位置するほどの購買層を持っている。GNP自体も同様な順位だったと思う。それくらい世界の中でも経済的に大きな存在となっている。確かに貧乏人は多いが、金持ちもけっして少なくない。平均的日本人以上の生活をしているブラジル人も少なくないことは、ブラジルにしばらく滞在したことのある方なら体験的にご存知のはずだ。だからCDを買っている人は買っているのだと僕は思っている。あれだけ音楽が好きな人たちが多い国なのだから売れなきゃおかしいでしょう? ましてや、「世界でもっともカッコイイ音楽」がたくさんリリースされているのだから。

 ブラジル音楽と一言でいっても、ご存知のように主にその音楽が生まれた地域によってそれぞれ多様なジャンルがあり、もの凄い広がりを持っている。でも大ざっぱに言って、今年はその多くのジャンルが活況を呈していたといってよいのではないだろうか。あえていえばバイーアのアシェー・ミュージックが今一つマンネリ化してセールス的には厳しかった感は拭えないが、それでも良い作品を出していたアーチストも少なくない。

 総じて今年はここ数年の傾向をそのまま受け継いで、伝統音楽からコンテンポラリーな音楽まで、それぞれのジャンルの中での作品のバラエティが拡がり、作品の質も向上していると思う。そして音質も目覚ましく改善されてきて、特に「REMASTERIZADO」とジャケットに記されているものはそのほとんどが素晴らしいサウンドに仕上げられていて、50年代や60年代の生々しい録音が楽しめるようになったのはとても嬉しいかぎりだ。

 それではジャンルごとに主な動きを列挙してみよう。お手許に弊社発行のMPBのバックナンバーが揃っていたら、それらを見ながら読んでいただきたい。

●サンバ/ショーロ

 サンバは、一般的にはパゴーヂ・サンバの売り上げが圧倒的だろうが、インデイ・レーベルが頑張っており、ネイ・ロペスやネルソン・サルジェント、ヴェーリャ・グアルダ・ダ・マンゲイラら、ベテラン・サンビスタたちの新録音が次々に登場した。 EMIは「ハイーゼス・ド・サンバ」と銘打ってサンバの名アーチストたち26人の代表曲を20曲収録した編集盤をリリースし、ブラジルの年配者たちの郷愁を誘っている。ショーロもこの数年新たに注目を集めているようで、こちらもインデイ・レーベル中心ではあるが、新人や興味深いグループのアルバムが登場しているし、ショーロの楽譜やショーロに関する書籍も販売され、それぞれ好セールスを記録している。

●MPB

 MPBのベテラン勢も相変わらず好調で、ジルの11枚組ボックスセット『エンサイオ・ジェラル』は限定1000セットが瞬く間にメーカーの倉庫から消えていった。カエターノは『プレンダ・ミーニャ』が彼の生涯で初めて100万枚を越えたし、MPBファンの間で賛否両論を巻き起こしたミルトンの『クルーナー』は、むしろブラジルの一般大衆には好意をもって受け入れられて、前作『タンボーレス・ヂ・ミナス・アオ・ヴィヴォ』よりも短期間で10万枚の壁を越えた。

 11月の時点でブラジルの業界紙によると、ジャヴァンも最新のライヴ・アルバムがブラジルの各地で売り上げチャートの10位以内に入っている。リオでは数々のポップスを抜いて堂々のトップに立っている。イヴァン・リンスは盟友であった名作詞家のヴィトル・マルチンスと別れてしまったので、作品的には今一つであったが、来日公演はとてもリラックスしていて良いステージだった。

 日本盤は相変わらず出ないものの、ブラジル本国ではシコ・ブアルキは以前に比べるとCDのセールスは上昇しているようだ。特に前々作の『パラ・トードス』から前作の『アズ・シダーヂス』、そして最新盤の『アオ・ヴィヴォ』へと高いクオリティを維持して、注目度も増している。ブラジル国内ツアーのチケットも良く売れていたそうだ。

●ボサノヴァ

 ボサノヴァは本国では相変わらず不遇をかこってはいるものの、名盤の復刻CD化も単発ではあるが行われていて、『オス・ガトス/オス・ガトス』『オス・カリオカス/ ボサノヴァ』『ジョンゴ・トリオ/ジョンゴ・トリオ』『エウミール・デオダート/イヌーチル・パイザージェン』などは話題を提供してくれた。新録音ではクアルテート・ジョビン・モレレンバウムがその内容の素晴らしさとメンバーの知名度の高さで多くの人が聴いたことと思う。またコンスタントにアルバムをリリースしているホーザ・パソスもオリジナル中心の作品を出して、ボサノヴァの伝統を継承している。

●ノルデスチ/ノルチ/ムジカ・セルタネージャ

 北東部や北部の音楽はリオやサンパウロでの定位置を確保し、メストレ・アンブロージオやアントニオ・ノブレガらのアルバムも好評を博している。また、このジャンルでもEMIが名門レーベル=コパカバーナの膨大な音源から「ハイーゼズ・ノルデスチーナス」と「ハイーゼズ・セルタネージャス」という2つのシリーズをリリースし、大いに気を吐いた。そして、レニーニはその際だった音楽性と戦略で今や北東部音楽の枠を超えて注目される大きな存在になったが、特に最新作『プレッサォン』のズシリとした手応えは「さすがはレニーニ!」と思わせるに足るものだ。

●インストゥルメンタル

 インストゥルメンタルでは、何といっても7年ぶりにアルバム『エウ・イ・エリス』をリリースしたエルメート・パスコアルを筆頭に挙げたい。他にジョイスとの度重なる来日で日本でも知られたテコ・カルドーゾが主宰するニュークレオ・コンテンポラーネオや、やはりジョイスとの来日経験のあるベースのホドルフォ・ストロエテルがプロデュースするパウ・ブラジル、このふたつのインディ・レーベルはインストゥルメンタルを中心にしてとても良質な作品をリリースし、数々の賞も獲得している。

●ポップス

 ポップス・シーンでは本当にたくさんの才能溢れるアーチストたちが出てきたが、1人だけに絞るとすると伝統音楽とコンテンポラリー・ポップスのミクスチャーの巧みさでオットーを挙げておきたい。

 とても大ざっぱな見方で紹介から外れたもののほうがもちろん多いが、逆にそれだけたくさんの良質な作品がリリースされて、ブラジル音楽界はとても活況を呈していたと思っていただいて間違いない。そして来年はまさに西暦2000年、ブラジル発見500年の年なので、今年以上に大きな動きが起きるに違いない。今から本当に楽しみだ。

〔991220:中南米音楽 ケペル木村〕