ALO,ALO,BRASIL
mujika caipira, musica sertaneja

田舎音楽入門:ムジカ・カイピーラ〜ムジカ・セルタネージャ

Written by 《DINO》

今現在セルタネージャと言えば、シタンジーニョ&ショロローを頂点にブラジルで最も人気のあるジャンルとして聴かれている音楽を指すことになります。しかし、もともと「セルタネージャ」と呼ばれていた違うタイプの音楽が有りました。今回取り上げるのは、サンパウロなどの都会人から「田舎の音楽」と呼ばれた「ムジカ・セルタネージャ」と「ムジカ・カイピーラ」。日本ではあまり聴かれることのないジャンルですが、「ブラジル人の心の故郷音楽」とでもいうべき存在で、今も絶えることなく歌い奏でられています。

民俗音楽としてのムジカ・カイピーラ

 「ムジカ・カイピーラ」は、直訳すると「田舎の音楽」。サンパウロを中心に北はマトグロッソ州からミナスジェライス州、南はパラナー州に至る広い範囲で演奏されていました。サンパウロ周辺の農民に歌われていた、「モーダ・ヂ・ヴィオーラ」(ヴィオラ・カイピーラと呼ばれる複弦5コースのスチール弦のギター伴奏で歌う歌曲)と言う音楽がもとになっていて、最初からそうだったのかどうか分かりませんが、多くは3度のハーモニーによる二重唱で歌われ、なぜか男性が高い声で歌うのが一般的です。「ムジカ・カイピーラ」と言う呼び方自体は、サンパウロなどの都会に住む人たちから見た、ある種の蔑称ですが、特定のリズムや音楽構造を指している訳では無い様です。地方から都会への人口の流入などに伴って都会でも聴かれるようになり、商業ベースに乗ったポピュラー音楽として定着して行きます。


Viola Caipira

カイピーラからセルタネージャへ

 1940〜50年代は、ブラジルに外国の音楽がどっと入りこんでくる時期ですが、この頃から「ムジカ・セルタネージャ」又は単に「セルタネージャ」と言う呼び方が生まれます(この辺はちょっと曖昧)。この時期、田舎音楽家たちも国外の音楽を取り入れ、キューバやメキシコのボレロ、ランチェラ、パラグァイのグアラニアなどを素材に、実に多様な音楽を展開していくことになります。例えば、ガル・コスタが録音した「インヂア」やカエターノが録音した「イパカライーの思い出」は、パラグァイの曲で、50年代にセルタネージャのカスカチーニャ&イニャーナがブラジルでヒットさせた曲。「田舎の音楽」と呼ばれてはいても、素朴でひなびたものだけを想像していると、意外な音楽性に出くわして驚くこともしばしばです。セルタネージャのオムニバス盤を聴いてるとメキシコのボレロのアルバムを聴いてるように感じることもあります。

 この頃になると、必ずしもヴィオラ・カイピーラが使われるわけではなくなります。それもあって、「ムジカ・セルタネージャ」と言う名称が生まれたのかどうかはわかりませんが、オーケストラやブラスバンド、コーラス入りと何でも有り状態に突入。日本の歌謡曲と近い状況だったのかもしれませんね。伝統音楽とはいったん切り離された、ポピュラーミュージックとしてのジャンルが確立されます。

もはや田舎ではなく

 今現在、ブラジルで「セルタネージャ」と言えば、アメリカのカントリー・ミュージックの影響を受けた、バラード主体のポップスの事を指します。ブラジルの全ての音楽ジャンルで起こるブレーガ化の一種とみることもできます。元々の「ムジカ・カイピーラ」の面影はもはや無く、コンサートはスモークがたかれ、レーザー光線が飛び交う大イベントと化しています。雰囲気的には、チャゲ&飛鳥が稲垣純一& 徳永英明の声で歌ってる感じ。ブラジルで最も売れている音楽ジャンルでも有ります。

 今回は、さすがにこの辺りまで手を広げるととんでもないことになるのでちょいとかすめる程度にしておいて、「田舎の音楽」の有名どころをご紹介することにします。と言っても実はよく解ってはいないんですね。なんせ、日本ではあまり需要が無いので聴いてる人も少ないし、雑誌なんかでも取り上げられることもほとんど無く、手に入った音源を頼りにずるずると細い糸を手繰り寄せてるような状態です。そんなわけで、まぁ、あまりなじみの無い音楽に少しでも興味を持ってもらえればなぁと期待を込めつつ......。