ALO,ALO,BRASIL
Que tal, Nordeste?

〜やさしい(?)ノルデスチ音楽入門編〜 最終回

Written by Q-Tchan

連載にあたって

 今回お話をいただいて、ノルデスチ(NORDESTE:北東部)音楽入門編と題して、連載をさせていただくのですが、いまいちマイナーなノルデスチ音楽のメジャー感アップをもくろんで、通常の入門編とは違ったゲリラ的手法で、この音楽への興味を高めてもらおうと思ってます。具体的に言うと、入門編につきもののノルデスチ音楽の概説(地理的・歴史的な背景など)的な形式ではなく、コラム的形式で縦横無尽にキーワードをちりばめてその都度触れていくようにしたいと思います。

 ノルデスチ音楽の概説については、専門書「ブラジリアン・ミュージック」や99年10月に発行されたフリーペーパー「MPB」などでしっかりまとめてあり、大変参考になりますのでぜひご参照ください。

おさらい

  クリスマスですね〜。聖夜に聞くフォホーなんてのもおつなものかも知れません。

前回はノルデスチ音楽の2大偉人、ルイス・ゴンザーガとジャクソン・ド・パンデイロについてお話しました。この2人の音楽、そして名曲の数々は、ノルデスチ音楽を楽しむために必要な共通語ともいうべきものだけに、その全ての曲を覚えるぐらいの勢いで、どんどん追求していってほしいものです。

 さて、あっという間に最終回です。ラストスパートはエンジン全開で行きますので、取り残されないようについてきてくださ〜い。

今を生きる


ドミンギーニョス

アナスタシア
Oswaldinho do Acordeon
シブーカ

オズヴァルヂーニョ
Oswaldinho do Acordeon
ドミンギーニョス、シヴーカ&オズヴァルヂーニョ

エルメート・パスコアル

マリネース

ジョアン・ド・ヴァリ

クララ・ヌネス

エルバ・ハマーリョ

ガル・コスタ

フォホー・マストゥルース・コン・レイチ

 今にわかに注目を浴びているノルデスチ音楽。この音楽のポピュラー化に多大な貢献をしたのが、ルイス・ゴンザーガジャクソン・ド・パンデイロであり、特に1950年代前半は、彼らの絶頂期だったわけですが、後半になると彼らの人気は衰え、ノルデスチ音楽は田舎のカッコ悪い音楽という定位置に戻ってしまうのです。しかし、その絶頂期にまいておいた種は、彼らを再び表舞台に呼び戻してくれることになるのです。ほっ。

 1950年代後半から1960年代前半までは、ボサノヴァがシーンの注目を集め、ノルデスチ音楽は影を潜めてしまうのですが、この間にポスト・ゴンザーガ世代は着実に育っていたのです。まずは、正統派フォホー系に属するアーティストを紹介しましょう。

 現在MPB界でのトップ・アコーディオン奏者であるドミンギーニョス(DOMINGUINHOS)は、幼少時の1954年にルイス・ゴンザーガと出会って、その才能に感心したゴンザーガから良いアコーディオンを買い与えられ、以後彼の愛弟子となり、その後継者としての道を歩み始めていました。ゴンザーガ同様に、野太い声で素朴に歌うこのアコーディオン奏者は、ゴンザーガのスタイルを踏襲しつつ洗練されたコードハーモニーを施したプレイを聞かせます。またゴンザーガの様に様々な人と組んで曲を作っており、これもなかなかです。特に1968年に出会った女性シンガーソングライターのアナースターシア(ANASTACIA)と共作した作品群は、少し憂いを帯びつつも美しく、ノルデスチ情緒あふれる佳曲が多く、ジルベルト・ジルは、後にアルバムでこのコンビの作品を好んで取り上げ、”Eu so quero um xodo”などのヒット曲を生み出しました。なかなか大ブレイクはしませんけどね。

 ドミンギーニョスが出てきたところで、ついでにノルデスチ音楽には何かとつきもののアコーディオン奏者について押さえておきましょう。彼のほかには、インスト系の代表格としてシブーカ(SIVUCA)がまず挙げられます。彼は、ノルデスチ音楽だけでなく、クラシックやジャズなども弾きこなし、エレキギターやジャズオルガンなどもそこそこ弾けてしますマルチな人で、彼のアルバムでは一人多重録音によるトラックも多く聞くことができます。一方、他のMPB歌手のレコーディングでは、ノルデスチ系アコーディオンプレーヤーとしてフィーチャーされることが多く、そのバッキングトラックは秀逸なものが多いです。上品で洗練されたアレンジなのですが、ドミンギーニョスが、わりとあっさりしょうゆ味の音造りなのに対し、シブーカは野生味あふれるトンコツこくまろ、とでもいうべきでしょうか(余計にわからないか)。アコーディオンの特性を活かした個性あふれるサウンドは、例えばサンバ歌手クララ・ヌーネスのノルデスチ・トラックで存分に堪能することが出来ます。近年は、歳で体が弱ってきているようでバリバリのプレイがもう聴けないと思うと残念なかぎりですが、今年は久々の新作アルバムが出て少しほっとしました。あと少しでも頑張って欲しいものです。


ドミンギーニョス&シヴーカ&オズヴァルヂーニョ

 その他では、オズヴァルヂーニョ(OSWALDINHO)もインスト系代表格の一人で、若手ながらキャリアも長く、多くのMPB歌手のレコーディングやステージをこなしていますが、一流プレーヤーとしての芽がなかなか出てきません。才能はあるみたいなんですけどね。それより番外編で、外見をしばしシブーカと間違えやすいエルメート・パスコアル(HERMETO PASCOAL)を挙げておきましょう。彼はアコーディオン奏者ではないですが、ノルデスチの生まれで、サウンドもノルデスチ音楽をベースにしたものも多く、アコーディオンもそつなく弾いており、最近はフォホーを集めたアルバムを発表したことで、ノルデスチ音楽ファンは要チェックです。

 話を戻して、ゴンザーガ以降のアーティストを挙げて行きましょう。

 最近まで、ブラジル本国でもあまり知名度は高くなかったのですが、「スカートをはいたルイス・ゴンザーガ」とも呼ばれる女性歌手マリネース(MARINES)は、フォホー一筋50年の生粋の人で、フォホーファンの間では、ずっと一定の人気を保っています。特に彼女の伸びやかな声は、非常に耳に良く残り、あたたかさとノルデスチに生きるたくましさを強く感じさせてくれるのですが、日本ではなかなかCDやレコードが手に入らないのが残念です。

 ジョアン・ド・ヴァリ(JOAO DO VALE)は、60年代に花開いたノルデスチ音楽の名コンポーザーであり、ぜひ押さえておきたいところです。

 本人の歌は思いっきりへたくそですが、共感を呼ぶシンプルで素直な気持ちのこめられた詞に、親しみやすい、良いメロディーを持つその作品群はすばらしく、今もさまざまな歌手によって取り上げ嬢られる名曲を何曲も残しています。

 そして実はゴンザーガ以降ノルデスチ音楽のポピュラー化を進めたと言える歌手が2人います。1970年代、主にサンバ歌手として活躍したクララ・ヌーネス(Clara Nunes)がその一人です。クララ・ヌーネスはその時期、自らのルーツ音楽を追求し続け、この間に発表したアルバムにはその軌跡を見ることができるのですが、そこでは伝統的スタイルのノルデスチ音楽への強いアプローチが行われています。彼女はやがて人気歌手となりますが、これにより前述のシヴーカのアコーディオンを主にフィーチャーしたノルデスチサウンドは、多くの人に知れるようになりました。ノルデスチ音楽がどちらかというと、男性スターの方がよく売れてきたという傾向の中で、特に1980年代には女性歌手によるノルデスチ音楽のヒット曲が出るようになります。クララは、そのきっかけを作ったという意味でも重要な役割を果たしたのです。

 そして、クララの築いた土台の上に降り立ったのがノルデスチ音楽の女王エルバ・ハマーリョ(ELBA RAMALHO)です。女優としての顔をも持つ彼女の歌は、非常にパワフルで個性的。好き嫌いの分かれるところですが、サウンドもピコピコ音などのエレクトリック音を多用したあっかる〜い、陽気でポップなノルデスチサウンドで80年代前半に次々とヒット曲を繰り出し、ノルデスチ音楽のスター女性歌手としてゆるぎない人気を獲得するにいたりました。もっとも一時期、ランバダブーム以降から90年中ごろまでは、キューバなどラテン系へと音楽指向が変わったのですが、近年再びノルデスチへカムバックし、特に1998年には、現在のポップス・フォホー(※後述)の良い面を取り入れた完成度の高いフォホー一色アルバム「A FLOR DA PARAIBA」を発表したり、今年は前述マリネースの芸歴50周年記念アルバムをプロデュースするなど相変わらず精力的に活動しています。

 他にも1982年にMPBアイドル(?)歌手のガル・コスタ(Gal Costa)による“FESTA DO INTERIOR”というノルデスチ系の曲が大ヒットしたり、この時期は女性シンガーによる売れるノルデスチ音楽が最も出た時かもしれません。しかし以後は、目立ったノルデスチ音楽のスター歌手は現れず、80年代後半にランバダブームになると、結局メインストリームからはまた遠ざかり、ノルデスチ地域あるいはリオ、サンパウロなどのノルデスチ出身者の移民コミュニティーでのみ良く聞かれるサウンドへ姿を元に戻したようです。

 ただし、女性歌手がフォホーを歌うというスタイルは、恐らくこの時期から今のポップス・フォホーへと受け継がれていったようです。「ポップス・フォホー」とは、私が適当に付けた名称ですが、主にレシーフェ、フォルタレーザなどノルデスチの都市のラジオチャートをにぎわすために量産されている(もちろん踊りにも使われますが)フォホーの一種で、サウンドは、カーペンターズのようなさわやかポップスを、女性ボーカルにアコーディオンと、ドラムス、ベース、エレキギター、アルトサックスという編成のフォホーバンド形態で演奏し、ゴンザーガのフォホーが高級に思えてくるほどチープで画一的なリズムとコードのアレンジで、音楽的にはほとんど価値を見出せないのですが、かの地では90年代の間今に至るまで結構人気を博しています。この代表格はフォホー・マストゥルース・コン・レイチ(FORRO MASTRUZ COM LEITE)というグループですが、似たようなグループがいくつもあり、しかもどのグループを聴いても同じ様に聞こえるという。小室哲也がフォホーを作ってるような感じと言えば分かりやすいでしょうか。とにかく男性へのけなげな思いをつづった歌詞をフロントの女性歌手がかわいく歌い上げているスタイルが今人気のあるフォホーのスタイルなのです。

 さて、以上ドミンギーニョスからフォホー・マストゥルース・コン・レイチまでは、正統な「フォホー」の流れに属するアーティストとして位置付けられます。彼らのフォホーは、概ねアコーディオンをフィーチャーしてバイアォン(Baiao)、ショッチ(Xote)、フレーヴォ(Frevo)などのリズムを中心に演奏され、また70年代過ぎからは軽快なエレキギターのカッティング音が入れられるようになり、よりポップスな性格を帯びたフォホーへと進化していったのです。

 一方、ゴンザーガ以降のノルデスチ音楽について語るとき、無視できないのが1960年代から全世界的な広がりを見せた「ロック」の他、外来音楽からの影響です。次は、この側面からノルデスチ音楽の流れを見て行くことにしましょう。


新しい潮流


ジルベルト・ジル

アルセウ・ヴァレンサ

メストリ・アンブロージオ

ジェラルド・アゼヴェド

ゼ・ハマーリョ

左から
アルセウ・ヴァレンサ
ゼ・ハマーリョ
エルバ・ハマーリョ
ジェラルド・アゼヴェード

ファギネル

キンテート・ヴィオラード

 1960年代後半、ブラジル音楽シーンの注目はボサノバからロック、そしてトロピカリズモへと展開して行きます。特に後者のトロピカリズモ運動では、エレキギター、ロック、ビートルズというような要素をブラジル社会に持ちこむことに成功する一方で、これらを使って自らの国の持つ伝統的な音楽の一つであるノルデスチ音楽、具体的にいえばルイス・ゴンザーガやジャクソン・ド・パンデイロらの音楽が再評価されることになります。これについては、この運動の中心人物であったカエターノ・ヴェローゾ(CAETANO VELOSO)ジルベルト・ジル(GILBERTO GIL)の影響が大きいといわれています。

 その軌跡を顕著に見ることができるのは、特にジルベルト・ジルで、彼の1960年代後半〜1970年代中ごろまでのアルバムでは、ノルデスチとロックとボサノヴァ(ジョアン・ジルベルト)とビートルズの混合を真剣に模索する素晴らしいトラックの数々を聞くことができます。彼が幼少のころにラジオでよく聞いていたジャクソン・ド・パンデイロをエレキサウンドでカバーする試みも多く、今聞いてもカッコよいアレンジと張りのあるボーカルに、このころのジルの絶頂ぶりが伺えます。また、既に述べたようにドミンギーニョス=アナースターシア作品を取り上げるなど、ノルデスチ音楽の活性化にかなり貢献しています。それと、ジルのトラックを聞けば気がつくのですが、アレンジでアコーディオンはほとんど使われておらず、これが前述の正統なフォホーの流れと一線を画す理由です。もっとも、ゴンザーガらの影響下にあることには、変わりありません。

 ちょうど同時期、ジルらがメインストリームを賑わしていた裏で、ノルデスチ地方ペルナンブーコ(PERNANBUCO)州でもロックなどの英米音楽と地元音楽を融合する動きが出てきました。この代表格としては、アルセウ・ヴァレンサ(ALCEU VALENCA)が挙げられます。ルイス・ゴンザーガとジャクソン・ド・パンデイロを信奉し、フォホーをこよなく愛する彼は、自らのルーツを大事にしながら、アメリカ留学などの経験もあってロックにも傾倒し、ロックともノルデスチとも言える独自の中間サウンドを作り上げました。特にペルナンブーコ州を代表するリズムである、マラカトゥ(MARACATU)やCOCO(コーコ)、フレーヴォ(FREVO)をよく取り上げています。また、コンポーザーとしても活躍し、少しねじれた視点で詞を書く人ではありますが、個性的で質も高く、特にマリア・ベターニアは、よく彼の作品を取り上げています。あと、ライブでは、圧倒的な声量とちょっと変人っぽい喜劇俳優のようなパフォーマンスで楽しませてくれます。

 ここで、若干ノルデスチ音楽のリズムについてふれておきますが、ノルデスチと一口に言っても非常に広大な地域を指すので、その土地固有の特徴的なリズムというのも非常に多いのです。今挙げたペルナンブーコ州も非常に特徴的なリズムを多数有していて、前述マラカトゥ、コーコなどもその類です。また、同じマラカトゥという名前でも、マラカトゥ・ウルバーノ(MARACATU URBANO:都会のマラカトゥ)とマラカトゥ・フラル(MARACATU RURAL:地方のマラカトゥ)があり、しかもあまり似ていないリズムであったりして、とにかく多種多様です。マラカトゥ・フラルは、広く知られていなかったのですが、最近日本で国内版も発売されたメストリ・アンブロージオ(MESTRE AMBLOSIO)がこれを取り上げて注目を集めました。

 アルセウ・ヴァレンサが取り上げているのは、都会のマラカトゥの方でして、コーコもそうなのですがペルナンブーコ州の海岸地域のリズムは、非常にアフロ色が強くて刺激的です。このように、ペルナンブーコ州には、個性的なリズムが多く、一方これらのリズムは他のノルデスチの州ではあまり演奏されないという具合です。逆に、大体ノルデスチのどこでも演奏されるのは、フォホーの中のバイアォン、ショッチ、アフロ色の薄いコーコなどです。

 話をもとに戻して、アルセウ・ヴァレンサの盟友であるジェラルド・アゼヴェード(GERALDO AZEVEDO)もペルナンブーコ発新世代ノルデスチ音楽の代表格です。

 彼は、ヴァレンサのパワフルなパフォーマンスとは対照的で、やわらかヴォイスとともに美しく叙情的なサウンド世界を聴かせてくれます。ヴァレンサがロック寄りなのに対して、アゼヴェードはどちらかというとフォーク・カントリー寄りといえるかもしれません。

 そして、その方面では、前述エルバ・ハマーリョの実兄であるゼー・ハマーリョ(ZE RAMALHO)の存在を忘れてはいけません。ただし、彼は、より詞(ことば)を聴かせることに重点をおいて作品を作る人で、非常にアクが強くおどろおどろしいヴォーカルで、これまたひねくったコードを付けた曲を歌うので、ポルトガル語に明るくない日本人が聞くのは少々しんどいかもしれないです。

 ヴァレンサ、ジェラルド、ゼーの3人は、ノルデスチ発の新世代シンガー・ソングライターとしてMPBシーンで活躍しており、それぞれ一緒にライブや共作を行ったりして長年活動を続けています。そして、ゼーの妹の人気歌手エルバは、彼らの作品を取り上げてそれが広く世に紹介するという構図で、仲良し4人組みを結成しており、4人だけのライブ・アルバムを作ったり、とってもいい感じで活動をしているのです。

 同世代では、昔は結構トンガリ派のシンガーソングライターで、鹿島アントラーズのジーコの親友でもあるファギネル(FAGNER)も今やすっかりノルデスチ音楽の大御所です。ノルデスチの気骨な精神を感じさせる彼の初期作品は、評価が高いのですが、ある時期からロマンチック歌謡路線へと転身してしまったので、アルバムを聞くときは注意が必要です。最近のアルバムでは、元のフォホー路線に帰ってきています。ノルデスチ音楽の歌手には大抵言えるのかも知れませんが、この人もクセのある声のボーカルでなれるのに時間がかかるかもしれません。

 もう一組同世代のキンテート・ヴィオラード(QUINTETO VIOLADO)というグループも押さえておきましょう。やはりペルナンブーコ出身で、70年代に活動を開始し、ノルデスチのリズムをベースに、プログレっぽい仕掛けやコンテンポラリーなコードのハーモニーを付けたアレンジで独特のロックを聞かせてくれます。知る人ぞしるというか、音楽マニア向けというか、そんな性格を帯びているちょっと屈折したノルデスチロックは、しかし一聴の価値はありで、しかもこの方々これを20年以上も続けているのですから大したものです。

 以上が、70年代に出てきた新世代ノルデスチミュージシャンで、共通して言えるのは、ルイス・ゴンザーガやジャクソン・ド・パンデイロをルーツに持ち、つねにリスペクトしつつも、アコーディオン主体のサウンドでなく、積極的にエレクトリック楽器を導入する、又はアコースティックギターを一人かき鳴らすなど、ギターサウンド中心により表現されているという点です。ただし、ノルデスチ音楽はゴンザーガ以前は、もともと、ギターサウンドがメインだったので、その意味では決して新しい傾向ではありませんでした。例えば、伝統的な吟遊詩人のスタイルではヴィオーラ(VIOLA)と呼ばれるアコースティック10弦ギターを片手にして歌われ続けています。決定的に違うのは、エレクトリックギターあるいはエレクトリックピアノなどによる音楽表現が出てきたということであり、今まで挙げてきた新世代アーティストを多く輩出するだけのインパクトがあったということは、間違いありません。


混沌の世紀に


シコ・サイエンス&ナサォンズンビ

ムンド・リヴリS/A

カスカブーリョ

レニーニ

アントニオ・ノブレガ

ゼカ・バレイロ

シコ・セーザル

 さて、しかし80年代は特に新しい潮流が生まれることはありませんでした。前述のロック系の潮流の方も、ジルベルト・ジルはレゲエに傾倒したり、ファギネルはロマンチック歌謡に走ったり、アルセウ・ヴァレンサは“CORACAO BOBO”(愚かな心)というヒット曲を飛ばして気を吐きますが、どちらかというと正統なフォホーの流れが幅をきかせた時代でした。この間ジャクソン・ド・パンデイロは1982年、クララ・ヌーネスは83年、ルイス・ゴンザーガは89年にあの世へ行ってしまうのです。ナンマイダー。

 こうした寂しい状況で迎えた1990年代。ペルナンブーコ州の州都レシーフェから待望の新しいノルデスチ発ムーブメントが生まれます。その代表格が、マンギビートを提唱したシコ・サイエンス&ナサォンズンビ(CHICO SCIENCE&NACAO ZUMBI)で、彼らの特徴は、マラカトゥやコーコにハードロック系のノイジーなギターとサンプリング、そしてラップ風のボーカルといったヒップポップ感覚をミックスしたサウンドを作り出したことです。これまで、英米のポップス音楽とのリンクが大きく遅れていたかに見えていたノルデスチの音楽シーンは、彼らの出現によって一気に時代に追いつき、MPBシーンだけでなく世界的な広がりでに一定の衝撃を与えました。ただし、この試みは、決して彼らだけでつくり出したものではなく、しかもそれは80年代よりすでに始まっていたのです。シコ・サイエンス&ナサォンズンビがブレイクすると、彼らとともにマンギビートを提唱するムンド・リブリS/A(MUNDO LIVRE S/A)などシコ・サイエンスらと同時期にレシーフェで活動していた数々のグループが注目されたのです。

 これらのグループは、レシーフェの文化と地球全体につなげようとする「マンギ・ビット」運動を形成しているですが、シコ・サイエンスは彼らを代表してその理念を巧みな言葉に置き換えて表現する優れた詩人でした。ナサォン・ズンビと2枚のアルバムを出して、まだこれからという1997年2月に、残念ながら交通事故で若くしてこの世を去ります。しかし、彼らの理念はほかのグループに確実に引き継がれ、マンギ・ビット運動は、今もレシーフェからさまざまな情報を発信しつづけています。

 レシーフェ発の最近のグループとしては、カスカブーリョ(CASCABULHO)が要チェックです。ジャクソン・ド・パンデイロを信奉する彼らですが、伝統的フォホーやマラカトゥなどをより若い世代が聴きやすく再解釈したサウンドは、昔からのノルデスチ音楽ファンにも安心して聴くことができ、今後も期待できるグループの一つです。

 あとはこの人、マルコス・スザーノとのデュオで日本でもおなじみになったレニーニ(LENINE)もヘシーフェ出身で、ノルデスチ音楽をルーツにもちながらも、確固とした思想と世界観を持った詩にロック魂の発揮されたそのサウンドで、現在のMPBシーンをリードする存在です。

 この他にもポップス音楽とは離れたところで脈々と続いてきた伝統的なノルデスチ音楽を表現するアーティストが近年クローズアップされてきています。前述マラカトゥ・フラルやカヴァーロ・マリーニョというペルナンブーコ州土着のリズムをポップス音楽にとりこんでいるバンドのメストレ・アンブロージオ、音楽だけでなく踊り、演劇、衣装などノルデスチの伝統文化についても追求し、それらを総合してショーを行っているアントニオ・ノブレーガ(アントニオ・ノブレーガ)は、土着のバイオリンのハベッカ(RABECA)をフィーチャーした印象的なサウンドを聴かせてくれます。

 レシーフェのプリミティブなコーコの一つであるホーダ・ヂ・コーコ(RODA DE COCO)を聴かせるドナ・セルマ(DONA SELMA)も最近クローズアップされた一人です。普段からコーコのリズムであふれる伝統的土壌に育った歌好きのおばちゃんが、リズムにのって聴衆と短いリフレインをコールアンドレスポンスで歌って、どんどん場を盛り上げていくのですが、このようなスタイル今時なかなか目にする機会がないだけに、とりわけ人々の関心をひいて、65歳にして歌手デビューを果たしちゃいました。

 このように、レシーフェはノルデスチ音楽の発信地として今再び脚光を浴びており、実際マスメディアに取り上げられることも多いのですが、レシーフェ以外にも北部のリズム、ブンバ・メウ・ボイがノルデスチ音楽としてもクローズ・アップされてきており、この分野ではゼッカ・バレイロ(ZECA BALEIRO)の才能が注目されています。マラニャン州出身の彼は、ロック、カントリー、サンバまでをこなす懐の深さと面白い韻を踏む詞も印象的で、近年ガル・コスタが彼の作品をカバーしたりとポイント上昇中で、今後もMPBシーンを面白くしてくれるのではと期待できます。

 また、パライーバ州出身のシコ・セーザル(CHICO CESAR)は、来日も果たしており日本でもお馴染みですが、少しクセのあるノルデスチ風サウンドが面白いほか、耳になじむ良いメロディーをつくるコンポーザーとしても素晴らしく、彼らの動向からもしばらくは目が離せません。



終わりに

 以上、最終回はかなり詰込でやってしまったので、なかなか頭に入りづらかったのではとも思います。今回の連載では、日本人である私達がノルデスチ音楽を聞く機会が限定されていることを考えて、コマーシャルベースにのっている物のみを取扱ったのですが、奥深いノルデスチ音楽のこと、この他にも即興吟遊詩人の世界など多くのことを説明しきれていません(説明できる自信はないですが)。

 とにかく、挙げられるだけの名前と題材は挙げておきましたので、あとはより多くの人が、この中にあるどれかの名前に引っかかって、様々なノルデスチ音楽をを聴く機会につながればということを願うばかりです。機会があれば、また中級編などもやってみたいと思いますが、しばらくは、私自身の別の活動に専念することになるかと思います。

 とりあえず、長々と連載におつきあいいただきましてありがとうございました。

−終わり−

Q−TCHAN


ノルデスチな一枚

Q−TCHAN/ココNO.1<<<完全自主制作盤>>>

 最後の最後に、何だか手前味噌で恐縮ですが、私の作品の紹介につき、お許しくださいませ。
 ノルデスチ音楽にハマってかれこれ6年になりますが、この素敵な音楽を、ブラジルのフィーリングそのままに日本の多くの人に伝えられたら、という漠然とした希望を持っていたのですが、昨年の終わりぐらいから、その可能性が見える作品が次々と生まれてくるようになり、とりあえず形にしようとして出来たのがこのアルバムです。
 主にジャクソン・ド・パンデイロのノー天気な歌世界とサウンドを、歯切れ良く言葉遊びふんだんなオリジナル日本語詞で再現することを目指しています。ノルデスチものでこういう作品を発表する人は今までほとんどいなかったと思いますが、前例のない中ではイイ線いっていると自分では思います。演奏はちょっといいかげんなんですけど、とにかく軽く笑い流して聴いてもらえればいいんではないけど。

 Q−TCHANのHP「DezPes」http://www32.ocn.ne.jp/~dez_pes

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