ALO,ALO,BRASIL
Que tal, Nordeste?

〜やさしい(?)ノルデスチ音楽入門編〜 第2回

Written by Q-Tchan

連載にあたって

 今回お話をいただいて、ノルデスチ(NORDESTE:北東部)音楽入門編と題して、連載をさせていただくのですが、いまいちマイナーなノルデスチ音楽のメジャー感アップをもくろんで、通常の入門編とは違ったゲリラ的手法で、この音楽への興味を高めてもらおうと思ってます。具体的に言うと、入門編につきもののノルデスチ音楽の概説(地理的・歴史的な背景など)的な形式ではなく、コラム的形式で縦横無尽にキーワードをちりばめてその都度触れていくようにしたいと思います。

 ノルデスチ音楽の概説については、専門書「ブラジリアン・ミュージック」や99年10月に発行されたフリーペーパー「MPB」などでしっかりまとめてあり、大変参考になりますのでぜひご参照ください。

おさらい

 前回は、ブラジル音楽におけるノルデスチ音楽の立場と状況を中心に話をすすめてきましたが、はっきり言ってノルデスチ音楽とは何なのかという核論には全然触れていないので、こら!まじめにやれ!というお叱りがあるのではとビクビクしておりました。しかし、ノルデスチ音楽に本当にハマってもらおうという野望を持つ連載としては、みなさんにもぜひそういう検証をしてもらいたかったのです。

 例えば、ノルデスチ音楽には目をくれず、サンバやショーロだけはよく聴いていて、サンバのすべてを分かったような気になっている輩がいるとすれば、それはちょっと片手落ちじゃないですか?と。エドゥ・ロボがクラブ系で人気があるのは結構だが、単に踊るだけの音源としてのみ取り上げられるというのもいかがなものですか?もっと深くを見てみましょうよ!と呼びかけてみたかった思ったわけです。

  ノルデスチ音楽と他のジャンルのブラジル音楽との間には、色々な相関関係を見いだすことができます。それが分かれば、ブラジル音楽の楽しさというのは、本当に何倍にも膨れ上がります。これ嘘じゃない。少なくともその実践に努めている私は、そう断言したいのです。

 …ちょっとグチっぽくなってきそうなので、おさらいはこの辺で切り上げて、よし。次からは脳天気パワーをもって、入門編を一気に先に進めましょう。ノルデスチ音楽のポピュラー化を推し進めた、2大アイドルのご紹介です。

アイドルを探せ!

 さて、ジャクソン・ド・パンデイロ(JACKSON DO PANDEIRO)という名前ご存知ですか?

最近は、日本の外資系大手CDショップのブラジルコーナーでよくピックアップされているのを目にするので、すでにご存知の方もいらっしゃるでしょうが、彼は紛れもなくノルデスチ音楽のアイドルの一人であります。

 今年(1998年)になって、彼のトリビュートアルバム“REVISTO E SAMPLEADO”(本誌のクロス・レヴューno.004で紹介中)が出て、日本でも話題を呼びました。さあ、これからノルデスチ音楽を聴こうという方は、さっそく買いに走ってもらいましょう。
LET‘S GO!!!!

ここで注意したいのは !!!

今は、ジャクソン・ド・パンデイロのオリジナル音源のアルバムも同時に出まわってるので、一緒に見つけたら、必ずオリジナルも何でもいいので1枚ゲットしておくことです。

 で、そのオリジナル音源のジャケに目をやると…何だかヨレたおっさんがへんてこなポーズ取ってたりしますねぇ。音のほうも聴いてみたけど、う〜んコミカルな感じで、ノリは良さげですね。でも、ちょっと野暮ったくないでかぁ?しかも、何となくどれも同じに聞こえてきて、だんだん飽きてきました。ほんまにこの人、おすすめアイドルなんでしょうか?

 一方、トリビュート・アルバムのクレジットを見てみると、おっと、最近新作ソロアルバムをだして話題のレニーニファギネル?だれじゃそれ?、ガル・コスタもいるってすごいんじゃない、ブラジル・ロックバンドの雄パララマス・ド・スセッソ、ラップ/レゲエのハッパシコ・ブアルキとサンバのゼッカ・パゴヂーニョ…と、まあ今のMPBシーンで話題の人たちがいっぱいじゃないですか。みんないつもやってる音楽は全然違うはずなのに、ジャクソン・ド・パンデイロやるよんと言ったら、老いも若きも、みんな大はしゃぎして来ちゃったと言うやつですか。しかも音はファンキーでカッコイイです。こっちの方は、ちょっとした愛聴盤になりそうです。

 なんて、最初はそんなモンです。トリビュート・アルバム手に入らない人も、ジャクソン・ド・パンデイロの音源だけは何とかして手に入れて聴いてくださいね。

 オリジナル音源は必ず何回か聴きます。すると、そのうち…。

 「あ、オリジナルの方が実はカッコイイかも…」と思える瞬間が…

 来たらおめでとう!あなたは、トリビュート・アルバムに参加したミュージシャンと同じ「アイドル」を共有することを覚えました!これです!これが重要です。ミュージシャンたちがジャクソン・ド・パンデイロというアイドルについて、語り合ったり、徹底的に遊んだりという感覚。ちょっとでも、これを共有できないと、ノルデスチ音楽のどこを好きになればいいのかというところが、なかなか見えてこないのです。

ノルデスチ音楽を楽しむための、第一歩として「アイドルを探せ!」。

 ジャクソン・ド・パンデイロは、ノルデスチ音楽の中でも、コミカルで軽快なリズムの面を際立つ、コーコ/エンボラーダというジャンルを、よりポップなサウンドに仕立て上げ、大道芸人的な楽しいキャラクターとともに人気を博したミュージシャンです。特にサンバのノリを掛け合わせた独特のグルーブとひょうひょうとした本人のキャラクターは、他の多くのミュージシャンを虜にしているのです。

彼の名前にある、「パンデイロ」とは、ご存知の方も多いと思いますが、ブラジル版タンバリンともいうべき楽器で、まあ名前についているとおり、この楽器を熱心に取扱い、卓越したリズムセンスによりその技を磨いた、その名手であります。ちなみに、かのマルコス・スザーノは、ジャクソン・ド・パンデイロの叩くリズムのアクセントをかなり研究したとのことですので、マルコスを目指してパンデイロの練習に励んでいる人は、要チェックです。

 また、彼のリズムセンスの良さは、歯切れ良く表現自在なボーカルからも良くわかり、彼の口は、アコーディオンの蛇腹から繰り出されるリズムの微妙なニュアンスをも表現できるとたとえられるほどです。

 そうですね、多様な「技」を持っている人とでも言うのでしょうか。同時に「魔力」を持っていると言えるかもしれません。そして、その魔力は、現在に至るまで、ずっと続いていることを、前述のすばらしいトリビュート・アルバムは、感じさせてくれるのです。

 まずは、この人、押さえておきましょう。

アコーディオンに首ったけ

 もう一人のアイドルを紹介しましょう。北東部音楽の偉人というと、まずこの人が出てくるという「ルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)」ですね。

 実は、今年(1998年)はこの人が亡くなってから、ちょうど10周年になるんです。だから、それにかこつけたトリビュート・アルバムが出そうなところなんですが…出ないですねえ。というのも、もうその手のトリビュート・アルバムは出尽くしちゃったからでしょう。没後5周年の時にトリビュートが出たし、2年前には、彼の愛弟子アコーディオン奏者ドミンギーニョスがルイス・ゴンザーガ集2枚組を出して、もう満腹状態と言うところでしょうか?

 よくわかりませんが、今はちょっとゴンザーガ関連のアイテムが手に入れにくい状況にあるという実感はあります。

 さて、うまいこと手に入ったという方は、ちょっと聴いてみてください。う〜ん、何てホンワカな音楽なんでしょう。ジャクソン・ド・パンデイロ以上に、好き嫌いがハッキリしそうです。何で、こんなオッサンがアイドルなんでしょうねぇ?

 いやいや、だまされたと思って、しばらくは、懐かしい感じのアコーディオンの音色をじっくり聴いて心を和ませていてください。その間にちょっと小話でも。

 ノルデスチ音楽というと、アコーディオンの入った音楽と連想する人も多いと思います。が、実際は、ノルデスチ音楽の中には、アコーディオンの入っていないスタイルが多々あり、むしろ数としては、入ってないスタイルの方が結構多かったりするのです。 しかし、現実にはノルデスチ音楽の中で、圧倒的にポピュラリティーを得ているのは、アコーディオンの入ったスタイルであり、それを決定付けたのが、他ならぬこのルイス・ゴンザーガだったと言うわけです。一体どうやって?

 当初はアコーディオン奏者として、音楽キャリアをスタートさせたルイス・ゴンザーガは、故郷のノルデスチ色の濃いショーロなどを南部の各都市で演奏して回り、都会のリオ・デ・ジャネイロに住むようになってから、アコーディオン奏者としてそこそこの成功をおさめたのですが、ある時期から「歌うアコーディオン奏者」兼作曲家という路線に転換します。

 それが、サンバの過渡期にあたる1940年代中ごろのお話。

 彼は、ノルデスチ出身の詩人、ウンベルト・テイシェイラ(=Humberto Teixeira)と組んで、故郷のノルデスチ地方への郷愁をテーマとした作品を発表し始めます。ノルデスチの生み出したリズムの一つである「バイアォン」に乗って軽快に、しかし哀愁たっぷりに歌われる彼らの作品は、都会のリオで評判を呼び、1948年に彼らの最大のヒット曲である「白い翼(=ASA BRANCA)」が出てからしばらくは、出す曲が次々とヒットする状況が続きました。サンバに代わる新しいダンス音楽として支持されたからと言われています。

 しかし一方で、その詞と曲自体に素朴な魅力があることを見逃してはなりません。ルイス・ゴンザーガは、アコーディオン奏者として、めちゃめちゃうまいわけではなく、歌も結構ヘタ、作曲の技術も高度だったわけではありません。ただ、自分の曲を作り、歌うことが本当に好きな人だったようで、500曲近い作品を残しています。その並々ならぬ情熱から生まれた彼の作品は、しかし彼の成功の全てだったと言えます。

 前述の「白い翼」は、準国歌といわれるほど知名度と人気が高く、そのほかの彼の作品でも、ノルデスチ出身でないにもかかわらず、聴く者の郷愁と喜びを誘って、多くのブラジル人の心をがっちりとつかんでいます。ジャクソン・ド・パンデイロが「技」なら、ルイス・ゴンザーガは「心」である、と言えるかもしれません。

 彼の作品に使われたバイアォンショッチマラカトゥなどの「ノルデスチ地方独自のリズムとダンス」と、「アコーディオン(ポルトガル語では、サンフォーナ=SANFONAという)」と、「北東部地方の訛り言葉による素朴な歌」の3点セットは、ゴンザーガにより、ブラジルの多くの人に認知されるようになりました。ちなみに、アコーディオンを使ったヒット曲というのもかつてなかったことであり、この点では画期的な出来事だったわけです。

 ノルデスチ音楽を語るときは、たいてい「フォホー(=FORRO)」という言葉が出てきます。「フォホー」とは、バイアォンショッチコーコなどのノルデスチ音楽独自のリズムを、アコーディオン、トライアングル、ザブンバ(低音部を受け持つ太鼓)+αの楽器を使って演奏するノルデスチ・ポピュラー音楽のことを言います。

 フォホーは、ノルデスチ音楽の中では、今もブラジル各地で演奏される最も代表的で、ポピュラーなダンス音楽ですが、これをここまで定着させたのは、やはりルイス・ゴンザーガであったといえます。彼以前にもアコーディオン、トライアングル、ザブンバを用いるスタイルはあったのですが、これをポピュラー音楽として自作開発して、まず世の中に「バイアォン」を送り出してインパクトを与え、このスタイルで様々なノルデスチのリズムを取り入れてヒット曲を次々と出していった結果、やがて汎ノルデスチ音楽としての性格を有するフォホーというダンス音楽へと進化し、ゴンザーガの申し子とも言うべきフォホーのミュージシャン達が、そのスタイルを踏襲して現在に至っているのです。ルイス・ゴンザーガが、「フォホー」という「体」を創り出し、今のポピュラー音楽シーンにおけるノルデスチ音楽を支えているとも言えるでしょうか?彼はその点でも、偉大な人なのです。

 かなり長くなりましたが、とにかくルイス・ゴンザーガを聴くときは、アコーディオンを使ったポピュラー・ノルデスチ音楽の創始者であることを頭に入れておいて、あとはその心を彼の曲にどっぷりと漬け込むことです。素朴ながら心温まるメロディーとアコーディオンの音色に味をしめる日が、必ず来ることでしょう。フォホーの源には、フォホーの楽しさが分かる手がかりがあります。これをぜひとも、見つけてもらわなければなりません。

ルイス・ゴンザーガ トリビュート・アルバム

V.A. / VIVA GONZAGAO
(1994)

DOMNGUINHOS / CANTAM LUIZ GONZAGA
(1997)

V.A. / BAIAO DE VIRAMUNDO
(1999)

DANIEL GONZAGA / UM BANQUINHO, UM VIOLAO...
(2001)

次回予告

 以上、ノルデスチ音楽の2大アイドルを押さえよ、ということで駄文も含めて、たっぷり書かせてもらいました。ひょっとして、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、一応この2人を押さえれば、ノルデスチ音楽の「心」「技」「体」を学べるという構図になってます。はは、何と強引な…。それはともかくとしても、ポピュラー・ノルデスチ音楽の代表格であるこの2人を聴いておくことが、いろいろな意味で重要なことは間違いありません。

 さて、次回が一応最終回の予定です。ゴンザーガジャクソン・ド・パンデイロ以降から、一気に現在までノルデスチ音楽シーンを走り抜けちゃいます。次回<今を生きる>他、ご期待ください。


ノルデスチな一枚

カスカブーリョ(Cascabulho)/フォーミ・ダ・ドール・ヂ・カベッサ(Fome da dor de cabeca)
<<<Mangroove/Brasil MR 0020>>>

 今回本文中で取り上げたジャクソン・ド・パンデイロのトリビュート・アルバムにも参加しているポピュラー・ノルデスチ音楽の若手実力派バンド。アルバムは、ジャクソン・ド・パンデイロに捧げられたもので、もちろん彼への敬愛ぶりが随所に見られる一方、意外とゴンザーガ系統のフォホーをも強く感じさせてくれます。

 少しノイジーなエレキ・ギターやロータリー・オルガンも顔を見せ、ロック世代の現代っ子へもアピールを忘れません。ノルデスチ初心者も入りやすいのではないでしょうか。 

 インディオ音楽へのアプローチもあり、これは必聴。今後の彼らにも期待大です。